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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第24回 本当の気持ち


◆第24回

もう一度、選抜メンバーになりたいと思っていながらも、高橋先輩のことを思って、関東大会に向けての再オーディションを断ってしまったさくら。
本当は、みんなと、伊吹先輩といっしょにコンクールのステージに立ちたいのに……。今回は、そんなモヤモヤをスッキリさせてくれる、『あの人』が登場です!

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♪本当の気持ち

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 翌日の、昼休みのこと。

「伊吹先輩!?」

 クラスメイトの悲鳴みたいな声に、びっくりして顔を上げると。

 教室の入り口には、本当に伊吹先輩が立っていた!

 ど、どうしてここに!?

 先輩は、ふきげんそうに私をにらんだ。

「そこのフルート、ちょっと来い」

「え!?」

 急な呼び出しに、クラスメイトがざわめく。

「伊吹先輩だ……! かっこいい……」

「でも吉川さん、よく伊吹先輩にシメられてるらしいよ……」

「伊吹先輩に呼び出されるのってうらやましいけど、シメられるのはイヤかも」

 そんなひそひそ声が聞こえる中、私は引きつった顔でうなずいた。

 連れてこられたのは、屋上へ続く階段だった。

 伊吹先輩は腕を組んで、低い声で言った。

「お前さ、昨日、再オーディションを断ったんだってな」

「どうしてそれを……」

「なんでだよ。関東大会に出たくないのか?」

 めちゃくちゃ怖い顔で言われて、思わず後ずさる。

 もしかして、けっこう怒ってる……?

「出たいですけど、高橋先輩は最後のコンクールですし。私はまだあと2年ありますから……」

 もごもご言いわけをすると、先輩の目がさらに冷たくなった。

「お前の〝出たい〟は、そんなもんなのかよ」

 その言葉に、カチンとくる。

 私だって、本当は出たい。

 でも、出たいって言えなかった理由が、ちゃんとあるのに!

「だって、相手は先輩ですよ! 先輩を差し置いて私が出るなんて、できるわけないじゃないですか。だから、私がガマンすればいいんです」

 モヤモヤしていた気持ちを、思いっきりぶつけてしまった。

 全部はき出してから、しまった、と口を閉じる。

 先輩を、もっと怒らせてしまったかもしれない。私は体をすくめた。 

 けれど先輩は、ふーっと息をはき出した。

 そして、さっきまでとはちがう、おだやかな声で話し出す。

「北田先生は、どうしてお前にチャンスをやったと思う?」 

「……わかりません」

「地区予選で、お前のフルートに可能性を感じたからだろ」

「……!」

 思ってもみなかったことを言われて、ハッとする。

「本気で全国大会に行きたいなら、先輩後輩とか関係ない。えんりょも、気づかいもいらない」

「……はい」

「本当は出たいのに、本気でぶつからないで身を引くなんて、おかしいだろ。お前は自分の選択と決定に、後悔しないのか

 きびしいけれど、優しい言葉だった。

 押しこめていた気持ちが涙になって、ぽろりとこぼれる。

「大事なのは、〝自分は〟どうしたいかってことだろ。自分の気持ちも大切にしろよ

「私の気持ち……」

 こんな状況で、自分の気持ちなんて言っちゃいけないと思ってた。

 私はまた、自分の気持ちを無視してたんだ。

 本当は、関東大会に出たい。

 伊吹先輩といっしょにステージに立ちたい。

 だって、先輩は今年で引退しちゃう。

 ……やっぱり、来年じゃ嫌だ!!

「私、私……やっぱり関東大会に出たいです!」

 すると、先輩はふっと優しく笑ってうなずいた。

「今すぐ、言ってこい」

「はい!」

 本当の気持ちをかくすのは、もうやめよう。

 自分の気持ちも大切にしよう。

「先輩、ありがとうございます!」

「ああ」

 オーディションは怖いけど、もう逃げない。

 伊吹先輩に見送られて、私は猛ダッシュで高橋先輩のクラスに駆けこんだ。

「先輩、すみません!」

 私は高橋先輩に、思いっきり頭を下げた。

「私、やっぱり関東大会に出たいです! オーディション、受けさせてください!」

 一度は断ったのに、こんなことを言ったら、高橋先輩にきらわれちゃうかもしれない。

 オーディションを受けたって、結局私が落ちてしまうかもしれない。

 でも、せっかくチャンスをもらえたんだ。

 少しでも可能性があるなら、全力でぶつかりたい。

 自分の選択と決定に、後悔はしたくないから。

「吉川さん、昨日は私に気をつかってくれたんだよね。ごめんね」

 高橋先輩の、優しくておだやかな声に、泣きそうになる。

 顔を上げると、先輩はいつもどおりの笑顔だった。

「よし、受けて立つ! 負けないよっ!」

 ガシッとまた固い握手をすると、じんと胸が熱くなった。

「ありがとうございます!! よろしくお願いします!!」

「じゃあ、北田先生のところに行こうか。再オーディションお願いしますって、言いに行こう」

「はい!」

 大きくうなずいて、高橋先輩といっしょに北田先生の部屋に向かった。
 

 

さくらの背中を押して、『本当の気持ち』を引き出してくれた伊吹先輩の言葉のおかげで、再オーディションを受けることに決めたさくら。
さくらの2度目のオーディション結果は、どうなっちゃうの!?
次回もおたのしみに!

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