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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第21回 先輩の誤解


◆第21回

黒羽高校吹奏楽部の、あこがれの椿先輩といっしょに、地区大会突破の「ごほうび会」の準備をすることになったさくら。そこに、伊吹先輩がやってきて……?
何が起こるか、ドキドキです!

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*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪先輩の誤解

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 ろうかからバタバタと足音が聞こえてきたと思ったら、バン!と音楽室のドアが開いた。

「課題、終わりました! お手伝いします!」

 あらわれたのは、息をはずませた崎山くんだった。

 伊吹先輩がごほうび会の準備を手伝ってることを知って、超本気を出して課題をクリアしたみたい。

「ありがとう。じゃあ、高田君と楓は、お菓子とジュースを取りに行ってきてくれる?」

「わかりました!」

 ニコニコ顔の高田先輩の横で、伊吹先輩は無表情でうなずく。

「それと……キミと、そのとなりのあなたも。昇降口に届いてるはずだから、いっしょに行ってきて。お願いね」

「はい!」
「は、はい!」

 崎山くんと私も、指名されちゃった!

 4人で昇降口に向かうと、スーパーの袋に入ったジュースとお菓子がたくさん置いてあった。
 ジュースの袋には、大きなペットボトルがたくさん。重そうだ。

 高田先輩がうーんとうなる。

「これ、一回じゃ持っていけないね。何往復かしなくちゃ」

「だな。フルート、お前はこれ運んどけ」

 ジュースを持とうとしていたら、伊吹先輩にお菓子の袋を渡された。

「あ、はい。わかりました」

 伊吹先輩は、私が持とうとしたジュースを持ち上げている。

 私には、軽い袋を持たせてくれたんだ。さりげなく、気づかってくれたのかも。

「じゃあ、僕も」

 お菓子の袋に手を伸ばした高田先輩に、伊吹先輩はジュースの袋を突き出した。

「高田はジュース運べ」

「うーん。僕、ホルンより重いものを持ったことないから」

「ホルンもけっこう重いだろ。ったく、これだからおぼっちゃまは……」

 伊吹先輩と高田先輩のやりとりに、ふふっと笑ってしまう。

 やっぱりふたりは仲がいいんだな。

「いくぞ、崎山」

「はい! 俺、けっこう力もちなんです」

「じゃ、僕もジュース運びがんばろうかな。吉川さん、お菓子よろしくね」

「わかりました」

 私がうなずくと、両手にジュースの袋を持った高田先輩が、いたずらっぽく笑った。

「それじゃあ、音楽室まで競走だ!」

「なんでそうなるんだよ」

「わっ。待ってください~~!」

 男子3人は、バタバタと階段を駆け上がっていく。

 よし、私もがんばろう。

 お菓子の袋を両手に持って、階段を上り始めた。

「あ、伊吹先輩……」

 最後の袋を持った時、ちょうど伊吹先輩も階段を下りてきた。

「お菓子の袋はそれで終わりだな」

「はい。ジュースも、もう終わりですか?」

「ああ」

 先輩は、今までみたいに階段を駆け上がったりしないで、私のとなりを歩いてる。

 どうしよう。先輩とふたりきりだ。

 すごくうれしいのに、何を話したらいいのかわからなくてあせる。

 せっかくのチャンスなのに……。

 あと少しで音楽室についてしまう。

 私は勇気を振りしぼって、声をかけた。

「せ、先輩」

「ん?」

 よし、言え! 私!!

「あの……。ええっと。……崎山くんはどうしたんですか?」

 違う違う。そんなこと、聞きたかったんじゃないのに。

「会場の準備を手伝ってる」

「そうなんですね」

「崎山のやつ、やけにテンション高いんだけど。なにかあったのか?」

「あはは……」

 それは、伊吹先輩といっしょにいられて幸せだからなんだと思います……。

 なんて、本当のことは言えないから、苦笑いでごまかす。

「お前も、なんか楽しそうだし。……もしかして」

「え?」

 伊吹先輩は、まじまじと私を見下ろした。

「お前、あいつのこと……」

「……え?」

 もしかして、先輩は、私が崎山くんのことを好きだって勘違いしてる!?

 私が好きなのは伊吹先輩だし、崎山くんが好きなのは、私じゃなくて伊吹先輩です!

 でも、そのどっちも、絶対に言っちゃいけないことだ。

 あせっていると、伊吹先輩が納得したような顔で言った。

「まぁ、仲いいしな、お前たち」

 先輩の言うとおり、確かに崎山くんは大切な友達だけど……。

 なにも言えなくなった私は、うつむいてしまう。

「……お前さ、元気そうだな」

「え?」

 急に話が変わったことにおどろいて顔を上げると、伊吹先輩がまっすぐに私を見ていた。

「また選抜メンバーから外されて、ふてくされてるかと思ったけど」

「そんなことないです」

「そっか」

 ふっと笑った顔がすごく優しい。

「それならいいけど。でも、悔しいときは悔しがったっていいんだぞ

「え……?」

「落ちこんだっていい。自分の気持ちにじっくり向き合って、それから前を向けばいいんだ」

「先輩……」

「まぁ、自分の気持ちを無視したり、ごまかすほうが、よっぽど楽だけど」

 その言葉を聞いて、こわばっていた体から力が抜けていった。

 伊吹先輩には、私が無理して笑ってること、全部お見通しなんだってわかっちゃったから。

「本当は、県大会に出られなくて残念で……すごく悔しいです」

「ああ」

 思い切ってはき出した本当の気持ちを、先輩が受け止めてくれた気がした。

 そうしたら、心が軽くなって、

「でも……心はいっしょに演奏してるつもりで、観客席から応援してますから」

 そんな言葉が、するりと出てきた。

「まだあきらめんなよ、県大会で終わるつもりはないからな。関東大会も、全国大会も、お前が演奏できるチャンスは、これからもまだまだある」

「……はい!」

 それはきっと、なぐさめの言葉なんだろうけれど、すごくうれしい。

 けれどすぐに、伊吹先輩はいじわるな顔になった。

「ま、崎山のことは秘密にしておいてやるよ。いちおう、部活内恋愛禁止だからな」

「え!?」

 にやりと笑って、先輩は階段を駆け上がっていってしまった。

 そ、そんな!! やっぱり誤解(ごかい)されてる!

 がっくりと肩を落として、よろよろと階段を上る。

 切ないな……。でも、どうすることもできない。

 はーっとため息をついて、音楽室に入った。

 その後、卒業生の先輩たちが用意してくれたゲームをしたり、おしゃべりしたり……。

 ごほうび会のイベントは、どれも楽しいものばかりだったのに。

 私はずっと、上の空だった。

 

先輩とふたりっきりでお話できて、すてきな言葉ももらったのに……先輩はかんちがいしたまま!?
正しく気持ちを伝えられる日が、早くきますように……!
次回、黒羽中吹奏楽部は、県大会の舞台に上がります!

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