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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第16回 終幕


◆第16回
絶望から始まったさくらの中学生活だったけれど、伊吹先輩のおかげで、目標ができて、そして恋も始まって……。
でも、コンクールの結果はどうなったの??
注目の1巻最終回です!

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪終幕

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 コンクール会場をあとにした私たちは、学校に帰ってきて。

 音楽室に楽器をもどし終え、解散となった。

 音楽室を出ると、さっこと加代ちゃんが駆けよってくる。

「おつかれ様~~~!」
「あ~~~つかれたね~~」

 ふたりの笑顔に、私も満面の笑みでこたえた。

「さ、帰ろう!」

 長いようであっという間だった一日を振り返りながら、いつも通り3人で校門を抜けたところで……。さっこが急に足を止めた。

 そこに、よそ見をしながら歩いていた加代ちゃんが、ぼふっと見事にぶつかる。

 このふたりは、本当にコントみたい。

 笑いながらさっこの視線の先をたどると……。

「おせぇよ」

 校門の横には、なんと! 伊吹先輩が立っていた。

「えっ!? 私ですか!?」

「もしかして、私!?」

 さっこと加代ちゃんがあわてふためく。

「待ち伏せ!? 伊吹先輩が、私を待ち伏せしてたの!?」と顔を真っ赤にする加代ちゃんの横で、さっこは「ヤバい。私、ちょっとまちがえたからシメられるかも」と青ざめる。

 赤と青の顔色になったふたりをちらりと見つつ、とたんに胸がさわぎ出す。

 えーと……。まさか、先輩……私を待ってた!?

「ちょっと吉川借りていい?」

 先輩のその言葉に、さらに鼓動(こどう)はテンポを上げた。

 さっこと加代ちゃんにはまだなにも話せてないから、ちょっと不安になる。

「せせせ先輩、あのっ、さくらは十分がんばったんで!」
「そうです! 先生もほめてましたし」
「どうか、どうか怒らないであげてください!」
「もうシメないであげてください!!」

 ──へっ!? 

 さっこと加代ちゃんが、私をかばってくれている。

 予想外な展開だけど、ふたりの優しさがうれしくなった。

 必死なふたりに、伊吹先輩はフッとクールな笑みを浮かべた。

「だから。ほめてやろうと思って」

「「「えっ!?」」」

 さっこと加代ちゃんの声に交じって、私の声まで重なった。

 だって、先輩がそんなことを言うなんて信じられなくて。

「行くぞ」

「は、はい」

 ついてくるのが当然というような先輩の口ぶりに、すなおにしたがってしまう私って……。 

「じゃ、こいつ借りてくから」

「は、はい!」

「おつかれ様でした!」

 さっこと加代ちゃんは、案の定のはにわ顔で、ぽかーんと口を開けている。

 ちゃんと説明できなくてごめん!

 申しわけないと思いつつ、先輩に引きずられていく。

「さっこ、加代ちゃん、ごめん! また明日ね!!」

「さ、さくらファイト!」

「伊吹先輩、お手やわらかに~~!」

 きっとまだかんちがいしているふたりに背を向けて、私たちは歩き出した。

 すぐに、先輩はさっきのクールな笑顔とは打って変わって、いじわるな笑みを広げる。

「シメねぇよ」

「ほ、ホントですか?」

「予選落ちしてたらシメてたけど」

「えっ!?」

「冗談だって」

 ……冗談に聞こえないんですけど。

 でも、無事に県大会への切符を手に入れることができて本当によかった。

 結果発表で黒羽中の名前が呼ばれた時、本当にうれしくて。

 クラリネットの先輩や、フルートの先輩、さっこや加代ちゃん、みんなもみくちゃになって抱き合った。

 崎山くんは、どさくさにまぎれて、伊吹先輩に抱きつこうとして失敗してたけど。

 ふと見ると……。泉中の吹奏楽部員が、肩を落として泣いていた。

 泉中は、金賞だったけど県大会には進めない「ダメ金」という結果だった。

 ♪

 駅までの道のりを、夕日にてらされながらゆっくりと歩く。

 伊吹先輩のとなりを歩いているなんて、なんだか信じられない。

 あかね色に染まった先輩の横顔がきれいすぎて、私は少し緊張していた。

「今まで合奏してても、どこかでみんなに合わせてやってるって気持ちだった。お前を見ていて、それじゃダメだって思ったんだ」

 ふいに聞こえた先輩の本音が、ドキリと胸をたたく。

『ちゃんと周りの音を聞け』って、俺自身にも当てはまる言葉で……。お前の音も、フラッターもちゃんと聞こえたよ」

「先輩……」

 先輩の優しい言葉が胸いっぱいに広がって、心の奥にしまっていた感情がわき出てきた。

「私、この学校に来てよかったです。受験失敗なんかじゃなかった。むしろ大成功です!」

 選びたかった道を行けなかったとしても、目を伏せなければ、現実を受け止めれば、ちゃんと目の前には道があって、どこかにつながっている。

 その道が「当たり」か「ハズレ」か。

「失敗」か「成功」かは、誰かが決めるのではなくて、自分で決めることができる。

 それに気がついた今、目にうつる景色はがらりと変わっていた。 

 おどろくほど、キラキラ輝く景色に。

 だから、結果的にこれでよかったと思える。ようやく、心の底から思える。

「へえ。大成功、ね」

「だって、こんなにすばらしい吹奏楽部に入れたし、コンクールにも出られたし、県大会にも行けるし」

 そして今、先輩のとなりで、いっしょに帰り道を歩いているこの奇跡も。

 あ……。ふと崎山くんを思い出して、ちょっとあせる。

 ずるいー! さくらちゃんの裏切り者!

 そう言いながら、崎山くんがジタバタする姿を想像して、ちょっと罪悪感。

 でもごめん、崎山くん。ちゃんと伊吹先輩に自分の想いを伝えたいの。

 ぐっとこぶしをにぎりしめて、私は大きく息を吸った。

「伊吹先輩」

「ん?」

「私、先輩とコンクールの舞台に立てて、本当にうれしかったです」

 先輩は今年で引退だし、卒業してしまう。

 だから、最初で最後のこのチャンスを、絶対に逃したくなかった。

 思い切ってそれを伝えようと、口を開いたその時。

「本当によくがんばったな。でも……」

「え……」

「まだ上手くなるよ、お前。だから、また特別にレッスンしてやる。覚悟しとけよ」

 にやっと笑った先輩は、ドキドキ爆弾を投下してきた。

 それって……。また秘密のレッスンをしてくれるってこと!?

 いっきに顔が熱くなる。どうしよう。

 先輩が、たまらなく好きだ。

「まー、まだ県大会があるしな。関東大会に、全国大会も」

 その言葉に、用意していた告白のセリフは吹き飛んでしまった。

 そうだ。私たちが目指すのは、全国だ。まだまだ先は長い。

 ここで浮かれて気をぬいてはいけない。私はもっとうまくならなくちゃ。

 口から出かけた「好きです」の言葉を、ぐっとのみこんだ。

「そうですよね。全国大会に行きたいです!」

「連れてってやるよ。だから、全力でついてこい」

「はい!!」

 迷うことなく大きくうなずいた私は、先輩に笑顔を向けた。

 ソロを決めた時のような、最高にかっこいいドヤ顔が、西日に包まれてキラキラ輝いている。

 先輩に好きって気持ちを伝えるのは、もう少しあとにしよう。

 少し仲よくなれただけでうれしいから。

 夕映えの空の下を、ふたりでゆっくりと歩く。

 明日からは、県大会に向けてがんばらなくちゃいけないけれど。

 今はまだ、この幸せを感じていたい。

 いつか、伊吹先輩のとなりで、笑い合いたいな。

 そんな願いを胸に秘めて。

 私の秘密の恋は、まだまだ始まったばかり……。

 

コンクールの初戦を、みごと突破した黒羽中吹奏楽部。
そして、始まったばかりのさくらの恋は、このあといったいどうなるの……?
続きは、第17回をおたのしみに! いよいよ文庫2巻に突入します♪

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  • 【定価】 704円(本体640円+税)
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  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319456

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