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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第14回 恐怖(きょうふ)の呼び出し


◆第14回
あきらめずにがんばったおかげで、ついに、コンクールのメンバー入りを果たしたさくら。
それなのに、失敗ばかりで、ついに合奏の練習ストップ!?
ついに、伊吹先輩が立ち上がります……!

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪恐怖(きょうふ)の呼び出し

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 15分間の休憩(きゅうけい)が伝えられ、北田先生は音楽室から出ていった。

 緊張とイラ立ちでいっぱいだった音楽室の空気が、少しだけゆるむ。

 それでも私は、楽譜を見つめながら、冷たい汗がふき出してくるのを止められない。

 どうしよう。なんとかしなくちゃ。

 呼吸が浅くなっていることに気がついて、深呼吸をしてみたものの、吐いた息はふるえている。

 そんな私に気づいて、パートリーダーが笑顔を向けてくれた。

「吉川さん、大丈夫だから落ち着いてね」

「はい……」

 その優しさに、涙が出そうになる。

 でも、わかってるんだ。先輩はそう言ってくれるけど、本当のところはもう時間がない。

 ちゃんと吹かなきゃ……。

 このままじゃ、みんながここまで作り上げてきた音楽を、私が台無しにしてしまう。

 パートリーダーの楽譜には、今までの練習で受けた注意点がびっしり書きこまれていた。

 それを、真っ白な私の楽譜に手早く書き写していく。

 曲をイメージしながら作業を進めていると。

「おい」

 ふいに横から聞こえた声にびくついた。

 だって、その声は……。

 腕を組んでこっちを見下ろしていたのは、やっぱり伊吹先輩だった。

 ふきげんそうな顔で、明らかに私を見ている。

 伊吹先輩のただならぬ気配に、全身が冷たくなった。

「そこのフルート、ちょっと来い」

 ──どうしよう、怖い……。

 おそれを感じたのは私だけじゃないようで、音楽室中がざわめきだした。

「い、伊吹くん、今日と明日で私が責任もって見るから、今はゆるしてあげて」

「そ、そうだよ。そんなに怒らないであげてよ……」

 パートリーダーとファーストの3年生が、引きつりながら私をかばうように言ってくれた。

 伊吹先輩は、それだけ怒ってるってことだ。

 怖くて先輩の顔を見ることができない。

「いいから来いよ」

 伊吹先輩はそれだけ言い残し、音楽室のドアへと歩き出した。

 これって、行かないとそうとうマズイんじゃ……。

 みんなの引きつった視線を一身に浴び、さらに緊張しながらそろそろと立ち上がった。

「吉川さん、大丈夫。私たちは絶対見捨てないから!」
「伊吹くんになにを言われても気にしちゃダメだよ?」

 そんなことを言われると、よけいに怖い。

 どうやら、想像以上に事態はマズイことになっているらしい。

 さっこと加代ちゃん、内藤さんも心配そうに見ている。

「ちょっと行ってきます」

 心配顔のフルートの先輩たちに見送られて、私は音楽室を出た。

 ♪
 
 防音扉を閉めるとすぐに、心配そうな顔をした崎山くんが追いかけてきた。

「さくらちゃん、がんばれ!」

「う、うん。なんか……。これってそうとうヤバイ?」

 崎山くんはめずらしく、まじめな顔でうなずいた。

「去年さ、今と同じ感じで、コンクール前に伊吹先輩に呼び出されたトロンボーンの先輩がいたらしいんだけど」

「うん」

「がっつり泣かされて帰ってきたらしいよ」

「……」

 伊吹先輩が後輩をシメたといううわさは本当だったんだ。

 ヤバイ。どうしよう。

 しかも、よりによって伊吹先輩をこんなに怒らせてしまったなんて。

 そのくらい、私の演奏はひどいんだ……。

 申しわけなくて、情けない。

「じゃあ、行ってくるね」

「うん。先輩とふたりきりって、ちょっとうらやましいけど」

「あはは……」

 崎山くんなりのはげましに意を決し、大きく深呼吸をして、音楽準備室のドアを開けた。

「し、失礼します」

 なんとか声を振りしぼり、部屋に入る。

 そこには伊吹先輩が立っていた。

 私をじっとみつめる視線だけで、もう泣きそう。

「あ、あの……」

「ちゃんと周りの音を聞け」

 え……?

 どんな言葉を浴びせられるかと、首をすくめた私に降ってきたのは、おだやかな声だった。

 おどろきのあまり、目を見開いてしまう。

「お前さ、」

「はい……」

 かすれた声で返事をすると、冷ややかだった先輩の瞳がふっとやわらいだ。

「今まで、ひとりでよくがんばったな」

「えっ……?」

 想定外の優しい言葉に、軽くパニックになる。

 先輩は私にゆっくりと近づき、上から見下ろした。

「でもお前はもうひとりじゃない。50人の仲間で心をひとつにして、作り上げるんだ」

「……っ」

 先輩の言葉が、優しい声が、おだやかな表情が、私の胸にじわじわと染みて心をゆさぶる。

「もちろん、選抜メンバーじゃないやつのぶんも」

「……はい」

「大丈夫だから。自信を持てよ」

「はい……!」

 想像もしなかった展開に、こわばっていた体と心が少しずつほぐれていく。

 先輩の優しい瞳を見ると、涙が止まらなくなった。

 去年のトロンボーンの先輩も、これで泣かされたのかな。

「ありがとうございます!」

 涙をふきながら告げると、先輩は少しいたずらっぽい顔で私をのぞきこんだ。

「ていうかさ、お前、緊張しすぎ」

「すみません」

「音がキツくなるのは、くちびるによけいな力が入ってんだよ」

「はい……えっ?」

 適切なアドバイスをくれたと思ったその瞬間。

 ニヤリと笑った先輩の手が、むにゅっと私のくちびるをつかんだ。

 えええ!? どういうこと!?

 心臓が、壊れたみたいに早鐘(はやがね)を打つ。

「ほら。くちびるに力が入りすぎると、上手く吹けねーぞ」

「……っ」

 いやいやいやいや! これはくちびるに入った力をぬくための荒療治(あらりょうじ)ってこと!?

「緊張ほぐれた?」

「ほ、ほぐれました」

 いや、ほぐれすぎて、逆に力が入らないです。

 ドヤ顔の先輩と目が合うと、笑いがこみ上げてきちゃって。

 思わずプッとふき出した私に、先輩も笑顔を向けた。

「よし、じゃあ戻るぞ」

「はい」

「色々乗り越えたお前なら、絶対できるから」

 ポンと頭に手を置かれて、また涙がにじんでくる。

 先輩が好き。どうしようもなく……好きなんだ。

 部屋を出ていく先輩の背中に、この気持ちをぶつけてしまいたい。

 ここから一歩飛び出して、先輩のとなりを歩きたい。

 ……でも、今はダメだ。

 まずは、しっかりと自分のやるべきことをやらなくちゃ。

 そして、地区予選を突破したその時には、きっと……。

 ──先輩、私がんばります!

 みんなと合奏できる幸せに、鼻の奥がツーンとする。

 もう大丈夫。絶対うまくいく。

 成功するイメージを頭にたたきこみ、しっかり前を見すえて音楽室へ戻った。

 

先輩の呼び出しは、「恐怖のおしかり」ではなくて、「心強いはげまし」だった!
先輩の言葉に気持ちを立て直したさくらは、いよいよ、コンクールの舞台へ……!
目がはなせません!!
次回も、お楽しみに♪

次回、第15回もおたのしみに!(第15回は11月19日午前10時公開予定!)

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