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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第13回 すべては通過点


◆第13回
コンクールのオーディションに落ちてしまったけれど、伊吹先輩のおかげで、もう一度前を向くことができた、さくら。
そんなさくらに、信じられないキセキが起こる!?
ドキドキの第13回です! 

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪すべては通過点

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 あれから1ヶ月が経ち、夏休みに入った。

 私はひとりぼっちの教室でひたすら練習をしている。

 伊吹先輩と同じコンクールの舞台に立つことはできないけれど、もうそれは仕方がない。

 コンクールじゃなくても、先輩と『海の男達の歌』を吹くことができればそれでいい。

 もしかしたら、冬の定期演奏会でかなうかもしれない。

 叶わなかったとしても、この努力は今後、身となって役に立つと思うから。

 ムダなことなんて、ひとつもない。

 負けそうな時は、先輩の言葉を思い出した。

 それに、私はさっこと加代ちゃんの気持ちにようやく気がついた。

 部活が大変で、やめたいと言っていたふたりが、私が選抜落ちした日からグチひとつこぼさず、朝も昼も必死に練習をしている。

 それはきっと……。私のぶんもがんばろうって思ってくれてるからだって。

 あの時ゆびきりした約束を、一生けんめいに守ってくれているんだ。

 ふたりはなにも言わないけれど、優しさと友情が、伝わってきた。

 だから、私も折れずにがんばるんだ!

 どんどん完成度が上がっていく合奏を聞きながら、心を合わせる。

 私はひとりだけど、ひとりじゃない。私も吹奏楽部の一員だ。

 私が今できることを、私なりにがんばろう。

 そんな思いを胸に、ファーストセカンドも吹けるように、ひたすら練習を続けた。

 ♪
 
「ねぇ聞いて! 今日はね、なんと!!!! 伊吹先輩が初めて指導してくれたの!」

 部活帰り、さっこが満面の笑みではしゃぐ。

「すごいじゃん! 感動だね! 伊吹先輩、どうしたんだろう? 最近あまり怖くなくなったっていうか、ちょっと変わったよね」

 ふたりの会話に、じんわり心があたたかくなった。

 最後のコンクールにかける先輩の意気ごみが伝わってきて、なんだかうれしくなる。

「指導、どうだった?」

「なんかね、あまり口数は多くないんだけど、じっくり聞いてくれて。ここはこう吹いたほうがいいとかアドバイスしてくれて……はぁ~すてきすぎた」

「いや~~~! うらやましい! それってふたりっきり!? か、間接キスとかなかったの!? 〝音が出ないのは楽器のせいか? ちょっとその楽器貸してみろよ〟……的な!」

 ぐっ……。

 加代ちゃんのそのひとことに、飲んでた緑茶でむせて、鼻から出そうになる。

「ないない~。みんなで個人練習してる時に、ひとりひとり回って見てくれただけ。あ~個室でふたりっきりでレッスン受けたい! そして……ぎゃー!」

 テンションマックスのふたりは、ゴホゴホとむせてる私には気づいていない。

 よかった。でも、やっぱりなおさら……伊吹先輩とのことは言えない。

 ふたりの乙女トークを聞きながらも、私の心はおだやかだった。

 少し前まで、伊吹先輩の話題が耳に入るのがつらかったのに、もう平気なのがふしぎ。

 自分の心しだいで、こんなにまわりの世界が変わるんだな。

 ♪

 今日も音楽室から聞こえてくる合奏に心をおどらせながら、教室でひとり練習をしていた。

「吉川さん」

 部活終了時間が近づいたころ、教室の後ろの戸から聞こえた声におどろいて振り向く。

「あ……」

 おどろきと緊張で、言葉が続かない。

 そこには、内藤さんが立っていたから。

 ゆっくりと教室の中へ入ってきた内藤さんの表情からは、感情が読めない。

 なんの用だろう。怖くてみがまえてしまう。

 机ひとつぶんの距離を置いて、内藤さんが足を止めた。

 ドクドクと心臓が不穏(ふおん)な音をたてる。

「……」
「……」

 夕日がさしこむ教室に、少しの沈黙(ちんもく)が流れた。

「ごめんね」

 突然、彼女の口から出たその言葉が、すぐには信じられなかった。

「フルートになれなかった時、悲しくてうらやましくて……あんなことをしてしまったの。本当にごめんなさい」

「内藤さん……」

 それは、私に優しく話しかけてくれていたころの内藤さんの顔だった。

 彼女の変化に、おどろいてじっと顔を見てしまう。

「でも、今はクラリネットになって、選抜メンバーになれて、結果的によかったって心から思うの。フルートだったら、私、選抜メンバーにはなれなかったと思うから。だからこんなこと言うのもおかしいけど……ありがとう」

 じわじわと心がふるえてくる。

 内藤さんは、あれからずっと苦しんでいたのかもしれない。

「内藤さんががんばったからだよ。私も、フルートを買ったことを言わなくてごめんね」
 それは本心から出た言葉だった。

 すごくつらくて悲しかった。けれど、わだかまりはするりと消えていった。

 きっと、あの日々があったから自分と向き合えたんだと思うから。

 その時は最悪な結果に思えていることも、きっとそれは通過点でしかないんだ。

 それに気づいた瞬間に、未来は良くも悪くも自分で変えられる。

 あの、伊吹先輩の言葉を、身をもって感じたから。

 顔を見合わせた私たちは、静かな教室で夕日を浴びて、泣きながらてれ笑いをした。
 
 ♪

「ちょっとさくらちゃん、聞いてよ!」

 最近は、お昼休みになると、崎山くんに度々呼び出されるようになっていた。

 部活中は「吉川さん」だけど、ふたりの時は「さくらちゃん」になる。

 どうやら崎山くんの心の友に認定してもらえたらしい。

 話題は、もちろん伊吹先輩のことばっかり。

「この前さ、伊吹先輩に聞いてください!って言って、『オンリー・ユー』のサックスソロを吹いたんだ! 愛をこめて!」

「そうなんだー」

 先輩的には、たっぷりの愛がこもってるなんて1ミリも知らないんだろうなぁ。

「今までウザそうにして聞いてもくれなかったんだけど、昨日はさ、『いいじゃん』って言ってくれたんだよ! マジ感激!」

「へぇ~! よかったね!」

 崎山くんがこんな感じにはしゃぐ人だって、知ってるのはなぜか私だけらしい。

 いつも恋バナの相手になっているのは、地味にうれしくもある。

 秘密を話せる人がひとりでもいるって、心のよりどころになるって思うから。

 崎山くんが私に話すことですっきりできていたらいいな。

 私の伊吹先輩への恋心を、崎山くんに伝えられないことに胸が痛む時もあるけれど。

 でも、もう少し自分が成長できるまで、誰にも言わないって決めたから。

 崎山くん、ごめんね。

 男の子が男の子を好きになるのは、「マイノリティー」とか「LGBT」っていうもののひとつらしい。

 伊吹先輩のことを話している崎山くんは、とってもキラキラしている。

 それって、私が伊吹先輩を想う気持ちと同じだ。

 世の中にはいろんな人がいて、いろんな価値観を持っていて、みんなそれぞれ一生けんめいに生きている。

『多様性』って、崎山くんは言っていた。

 笑って、泣いて、恋して、よろこんだり悩んだり。ただ、それだけなんだって知った。

「理解はできなくても、受け入れられなくても、受け止めてくれればうれしいんだけどね」

 崎山くんはそう言って、ふふって笑ってた。

 私と崎山くんは、同じ人を好きになった者同士。手ごわいライバルだ。

 私も、いつか崎山くんに、堂々と、ライバルだってことを伝えたい。

 もう少し、自分に自信を持てたら、その時は、きっと。

「さくらちゃん、最近がんばってるよね。選抜メンバーじゃない人はみんな遊んでるのに」

「コンクール曲が好きなだけだよ。もっとうまくなりたいしね」

 最近はひとりで練習していても、ふしぎとわくわくして楽しいんだ。

 崎山くんはやわらかく笑って私をのぞきこんだ。

「先輩たちも、さくらちゃんのことほめてたよ。がんばってるって」

「ホント? うれしい」

見てる人はちゃんと見てるんだよ。きっといいことあるよ」

「ありがと、崎山くん」

 見てる人はちゃんと見てる……かぁ。

 崎山くんって時々、神発言をする。

 彼は本当に神なんじゃないかと思うほど、おどろく出来事が起こることを、この時の私はまだ知らない。


*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪奇跡(きせき)が起こった!

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

「えっ!?」

 思わず飛び出た声が、せまい部屋に響いた。

 部長の高田先輩、フルートのパートリーダー、そして顧問(こもん)で指揮者の北田先生の前で、私はおどろきすぎて固まっていた。

「じゃ吉川さん、行こう。楽器出して、チューニングね」

「は、はい!」

 パートリーダーのあとについて、北田先生の部屋を出る。

 コンクール2日前になって、まさか……。まさかこんなことが起こるなんて……!!!!

 ♪
 
 楽器庫で楽器を組み立てて、軽く音出しをする。

 それから、フルートのパートリーダーにチェックをしてもらいながら、楽器の音程を正確に合わせる『チューニング』をした。

「よし、じゃあ行こうか」

「はい!」

 緊張と興奮で、フルートを持つ右手も、楽譜と譜面台を持っている左手もふるえている。

 ごくりとのどを鳴らして、先輩の後に続いて音楽室に入った。

 音楽室では、すでに選抜メンバーたちが音を出している。

 部内は、コンクール直前の張りつめた空気で満ちていた。

 パートリーダーと私が音楽室に入ったのを見て、部長の高田先輩が指揮台に上った。

「いったん音を止めてください」

 何事かとすぐに音が止んだ。

「コンクール本番2日前になりました。ここでみなさんにお知らせがあります」

 私の心臓はどきりとはねた。

「えー……。フルート2年の高橋さんが、盲腸で入院してしまいました。残念ながら、地区予選には出場できません」

 部長の説明に、部員たちがざわめいた。

 コンクール直前のアクシデントに、みんな動揺している。

「そこで……」

 部長は、音楽室の入り口でパートリーダーの横に立っている私を見た。

 みんながその視線をたどり、私に行き着く。選抜メンバーの視線が一挙(いっきょ)に私に集まった。

「吉川さんに、高橋さんのパートをお願いすることになりました」

 ギュッとフルートをにぎって、さわぐ心を落ち着かせようとしたけれど。

 もし、反対されたらどうしよう。怖くて顔がこわばった。

 一瞬の沈黙(ちんもく)のあと。

 降りそそいだのは、たくさんの温かい拍手だった……!

 うわぁ……!

 コンクール2日前の交代なのに、こんなに温かい拍手をもらえるなんて。

 信じられなくて、うれしくて。

 パートリーダーを見ると、笑顔でうなずいてくれた。

「もちろん、高橋さんも賛成してくれました。ずっと、ひとりで練習をがんばっていた吉川さんに、ぜひお願いしたいと言っていたそうです」

 たくさんの拍手を受けながら、私は「よろしくお願いします」と、深々と頭を下げた。

 出られなくなってしまった高橋先輩には本当に申しわけないけれど、ものすごくうれしい。

 私も、選抜メンバーになれたんだ。

 無理だと思っていた伊吹先輩との、最初で最後のコンクール出場がかなうんだ!!

 ざっとみんなを見回すと……。

 さっこと加代ちゃんが、泣いてくれている。

 崎山くんが、小さくピースをしながらニコニコ笑っている。

 内藤さんが、笑顔で迎えてくれている。

 そして……。伊吹先輩は……。

 目が合った瞬間、ニヤリと笑った。

 それを見たら、あきらめなくて本当によかったと心の底から思った。

 ──最後まであきらめるなよ。

 先輩のその言葉があったから、がんばれたんだ。

 私は伊吹先輩に向けて、ほんの一瞬だけ、とびきりの笑顔を向けた。

 ♪
 
 パートリーダーに連れられて、合奏の中に初めて入る。

「吉川さんはファーストになったから、私の横ね」

「はい!」

 ファーストを吹く、3年生ふたりにはさまれるようにして座る。

 北田先生が指揮台に立ち、夢にまで見たコンクール曲の合奏が始まった。

 今までの練習の成果をしっかりと発揮しよう!

 そう意気ごんでいたのに……。

 私は大きな壁にぶつかってしまった。

 毎日合わせてきたみんなの中に、突然飛びこむのは簡単なことじゃないと覚悟はしていた。

 けれど、ほぼ完成された中に入るのは想像以上に難しいものだった。

 課題曲の、ファーストフルート3人だけで吹くフラッタータンギングのメロディーは、私の音が雑で、悪目立ちしてしまう。

 吹きたくてたまらなかった自由曲、『海の男達の歌』の速い三連符(さんれんぷ)が、私だけ合わない。

 あせりと緊張で口がこわばり、ふるえてきて。出だしがおくれ、手がもつれてしまう。

「大丈夫だよ。吉川さん、落ち着いて」

「は、はい」 

 今日と明日しか練習できないのに。

 コンクールは明後日なのに……!

 何度も私のせいで演奏が止まってしまい、少しずつみんながイラ立つのを肌(はだ)で感じた。

「ストップ。吉川さん、指揮をよく見て」

「……はい。すみません」

 音を出すのが怖くて、情けなくて、みんなに申しわけなくて。涙がこぼれ落ちそうだ。

 この場から逃げ出したくなった、その時。

「先生」

 静かな声が音楽室に響いた。

 その瞬間、室内に緊張が走る。

「どうした、伊吹」

「少し休憩(きゅうけい)をください」

 それは、助け舟とは思えないほど、静かな怒りに満ちた声だった……。
 

 

あきらめずに練習をがんばっていたさくらに、奇跡(きせき)が起こって、伊吹先輩といっしょに演奏する夢がかなった!
でも、伊吹先輩が練習を止めたのには、意味があって……?
次回、休憩(きゅうけい)時間に何かが起こる!? 必見です!!

次回、第14回もおたのしみに!(第14回は11月18日午前10時公開予定!)

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  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319456

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