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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第11回 また、同じ


◆第11回
ようやく見つけた、中学校生活の部活の目標
『伊吹先輩といっしょにコンクールの舞台に立つ』が、早くもくだけちってしまった、さくら。
落ち込んだとき、声をかけてくれるのは……?
今回も、ドキドキ、ハラハラいっぱいでおとどけします!

 

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪また、同じ

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 学校を出て、私たちは駅まで歩き始めた。

 いつもはくだらない話で盛り上がる帰り道も、今日はおそうしきみたい。

 さっこと加代ちゃんは、なにもしゃべらず、うつむいて歩いている。

「ちょっとー。ふたりとも、暗いよ~!」

 明るく言ってみたけれど、逆に痛々しい。

「私のぶんもがんばってよ!」

「うん」
「うん」

 さっこと加代ちゃんは、やっと顔を上げた。

「トランペットもパーカッションも、全員選抜入りってすごいよ! あ、そういえば。さっき、トランペットパートで盛り上がってたけど、なにかいいコトでもあったの?」

 さざ波だった心が、ひりひりと痛む。

 それを必死にかくして笑顔を向けると、さっこはほんの少し顔を輝かせた。

「……うん。実はね、伊吹先輩が初めて1年生をほめてくれたの」

「うそっ!? なんて!?」

 食いついてきた加代ちゃんに、さっこはニヤリと笑って両手をポケットに突っこんだ。

「……よくやったな。って!」

「ぎゃ! かっこいい!!!! うらやましすぎる!!!!」

「でも、加代ちゃんもイケメンの佐久間(さくま)先輩とふたりで話してなかった?」

「そうなの! 実は、パーカッションの中で楽器分けがあって、私、なんか変なクサリみたいのをやることになって」

「クサリ!? なにそれ!?」

「『海の男達の歌』で、イカリを上げる時の音を表現するらしいの。で、佐久間先輩が私の練習を見てくれることになったの!」

「やったじゃん!」

「手取り足取り~。きゃー!」

 いつものテンションに戻ったふたりを見て、ほっとした。

 だって、気をつかわれると、逆につらい。

 でもふたりは我に返ったように、またしょんぼりとうなだれた。

「ごめん、さくら。はしゃいで」

「いーのいーの。あと2年あるんだし。来年こそがんばるよ!」

「さくら、あんなにがんばってたのに……」

「フルートは人数多いから、もともと全員出るのは無理だと思ってたから」

 あんなにがんばったのにこの結果。……本当は、消えてしまいたいほどはずかしい。

「メンバーは、明日から朝練も昼練もあるんでしょ? 大変だと思うけどがんばってね!」

「うん。強制ではないみたいだけど、私、まだまだ下手だからがんばろう……」

「私も。見たこともない打楽器がいっぱいで、不安だけどがんばる」

「うん! 私のことは気にしないでがんばってね。絶対だよ! 約束!」

 自ら出した小指が寒々しい。

 それにそっと小指をからめてきたふたりと、早く別れてひとりになりたかった。

 地元の駅に降り立ち、笑顔を取り戻したふたりに、明るい笑顔で別れた。

 それはまるで……合格発表の日と同じだった。

 あの日、合格したふたりが、不合格だった私を小学校で待っていてくれた。

 その別れぎわと、まったくいっしょ。 

 どうして、私だけ……。

 部活をやめたい、遊びたいと言っていたさっこと加代ちゃんは、選抜メンバーに選ばれた。

 さっこは伊吹先輩とならんでコンクールの舞台に立てる。

 加代ちゃんも、伊吹先輩のすぐ後ろで演奏ができる。

 崎山くんはもちろん、内藤さんも、名前を呼ばれていた。

 私はあんなにがんばったのに、どうして選んでもらえないんだろう。

 伊吹先輩といっしょに出られる、最初で最後のコンクールなのに。

 どうあがいても、私は伊吹先輩と同じコンクールの舞台には立てない。

 もう、一生私の夢はかなわない。

 どうしようもなくくやしくて、悲しかった。
 
 ♪

「あれ? さくら、帰ってるの? やだ~。ただいまくらい言いなさいよ~」

「うん、ただいま」

「おかえり~。それで、オーディションは……」

「あ~ごめん! 今日はすっごくつかれたから、すぐに寝たいんだ」

 お母さんの言葉をさえぎって、自分の部屋にこもった。

 だって、家族の顔を見たら、泣きくずれてしまいそうだったから。

 お父さん、お母さん、ごめんね。

 負け続きのダメな娘なのに、そっとしておいてくれる家族の優しさに胸が苦しくなる。

「ううっ……」

 こらえきれなくなって、私はふとんをかぶって、ぼろぼろ泣いた。

 加代ちゃんが選ばれたのは、パーカッションは楽器が多くて、人数が必要だから。

 さっこだって、トランペットは今回の曲で大事なパートだから。

 いつの間にか、泣きつかれた頭でそんなことを考えていて、ハッと我に返った。

 私、最低だ。さっこと加代ちゃんが、なにも努力していないって決めつけるなんて。

 受験に失敗した時と同じだ。結局、私はなにも成長していない。

 ♪
 
「選抜メンバーは音楽室に集合してください。合奏を始めます」

 ろうかから聞こえた高田先輩の言葉で、フルートのみんなが教室を出ていく。

 残ったのは、私と、経験者じゃない1年生の柳瀬(やなせ)さんだけ。

「さて、ぼちぼち練習しますかー。ヤル気出ないけど」 

「うん……やろうか」

「さくらちゃんがいてくれてよかった。私ひとりだけ落ちてたら、部活やめてたかも」

「……私もだよ」

 選抜メンバー発表の日から、練習内容はガラリと変わった。

 選抜メンバーの練習は、木管や金管ごとや、全員で合わせる合奏が多くなった。

 選ばれなかった5人の1年生は、音楽室から聞こえてくる『海の男達の歌』の合奏に心が折れそうになりながら、別の教室にのこって練習している。

 毎日行っていた昼休みの練習も、選抜メンバーの昼練が始まってからは行かなくなった。

 伊吹先輩は、楽器を出す時と、片づける時くらいしか見かけない。

 たまに楽器庫ではち合わせしそうになっても、先輩をさけてしまうんだ。

 もう、先輩に恋心なんて持ってはいけない。合わせる顔もないんだから……。

「あー、つかれた。ちょっと休憩(きゅうけい)しない?」
「そうだね。あ……」

 音楽室から聞こえる合奏から、トランペットのハイトーンが耳に届く。

「ん? ああ、今日も響いてるね~、伊吹先輩の音! あ~~かっこいいわ~~最っ高!」

 柳瀬さんの明るい言葉に、笑顔が引きつってしまいそうになる。

 だって、先輩の音を聞いていると、悲しくて苦しくて、たまらなくなるんだ。

 からっぽな気持ちが続く毎日で、ひとつだけわかったこと。

 それは、私はがんばったって、なにもむくわれないってこと──……。


*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 ♪あなたにわかるはずがない

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 選抜メンバー発表から2週間が過ぎたころ、柳瀬さんは部活を休むようになっていた。

 その気持ちはよくわかる。

 合奏することのないコンクール曲を、練習する気になんてなれない。

 でも、休むのもかっこ悪くて、私は毎日だらだらと部活に行っていた。

「今日もひとりか……」

 ひとりごとが、がらんとした教室に消えた。

 合奏が終わるまで、練習する気にもなれない。

 音楽室から響いてくる合奏が、私の音なんて簡単にかき消してしまうから。

 選抜メンバーの『海の男達の歌』は、どんどん完成度を上げている。

 私は、フルートを机に置いて、窓から外をぼーっとながめた。

 グラウンドでは、野球部とサッカー部が練習をしている。

「パス回せ~~~!」
「シュートだっ!」

 必死にボールを追いかける姿を見て、うらやましいと思った。

 大好きでのめりこみたいことがすぐそこにあるのに、私は参加することができない。

 がんばったってどうにもならないこともあるって知ったから、私はもうがんばれないよ。

 時間のムダだし、私も部活休んじゃおうかな……。きっと楽になれる。

 切ないほどきれいな青空を見上げて、深いため息をついた、その時だった。

 後ろから、ガラガラと、教室の戸が開く音が響いた。

 おどろいて振り向くと。

「よぉ」

 そこには、不敵な笑みを浮かべた伊吹先輩が立っていた。

「先、輩……」

 信じられなくて、目を見開く。

 だって、ずっとさけてしまっていた伊吹先輩が、今、私の目の前にいる。

 先輩は、ズカズカと教室に入ってきて、私がいる窓ぎわの机の上にドカッとすわった。

「……」
「……」 

 沈黙(ちんもく)が続く中、先輩は私をただじっと見ている。

 私の心の中までのぞくような、その視線にたえられなくて、すぐに目をそらした。

 ヒクツになっている自分を見すかされているようで、あせってしまう。

 逃げ出したい気持ちを振り払うように、私は口を開いた。

「先輩、合奏は……?」

「休憩(きゅうけい)中」

「そうですか……」

 それ以上、会話が続かない。先輩はずっと私を見ているだけだ。

 先輩がなにをしに来たのか、なにを考えているのか、わからなくて。

 思わずすわりこんだ私は、体中に響く自分の心臓の音を、ただ聞くことしかできない。

「ふてくされてんの?」

 先輩の、直球すぎるその言葉に、怒りがわいた。

「そんなんじゃありません」

 明らかにムッとしてしまった自分の態度は、図星だと言ってるようなものだ。

 情けなくなったら、なんだかこわばっていた体から力が抜けた。

「先輩に指導していただいたのに……すみませんでした」

 心の奥でジクジクとくすぶっていた言葉が、するりと出てきた。

 本当は、ずっとずっと、先輩にそう言いたかったんだ。

 うつむくと、視界のはしに、先輩の表情がきびしく変わるのがうつった。

「選抜メンバーだろうがなかろうが、心は同じステージに上がってると思えよ」

 先輩の言葉がグサリと胸に突き刺さった。

「最後まで、なにが起こるかわからない。あきらめるなよ」

「……」

 先輩の言おうとしていることはわかる。だけど、返事ができなかった。

 先輩はきっと、はげましてくれている。そして、めげてしまった私に怒ってる。

 でも、もうどうしようもないじゃない。

 選抜メンバーになれなかったんだから。

 全校生徒のあこがれで、かっこよくて。

 天才トランペッターで、頭も良くて、運動神経ばつぐんで。

 そんなかんぺきな伊吹先輩には、私の気持ちなんて、わかるはずがない。

「ムダなことなんて、ひとつもない」

 先輩のその言葉を聞いた瞬間に、私の中でなにかがはじけた。

「簡単に言わないでください! 先輩になんて、わかるはずがないです! 私は、がんばってもがんばっても、いつもむくわれない……」

 視界が涙でにじんで、先輩の怒ったような顔がぼやけた。

「もう、なにをやってもムダなんです……!」

 だって、先輩はコンクールが終わったら引退しちゃうじゃない。

 そうなったらもう、いっしょにコンクールには出られないんだよ。

 でもこの絶望感も、きっと先輩にはわからないよね。

 涙が止まらなくて、私は伊吹先輩とフルートをのこしたまま、教室を飛び出した。
 

 

先輩がかけてくれた言葉にたえきれず、教室からかけだして、逃げてしまった、さくら。
でも、先輩のこの言葉には、みんなが知らない、ある「思い」がかくされていて……?
次回は、伊吹先輩の過去にせまります!!

次回、第12回もおたのしみに!(第12回は11月16日午前10時公開予定!)

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  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319456

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