連載

  1. ホーム
  2. 連載
  3. 小説
  4. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい!
  5. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第10回 秘密の片思い

【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第10回 秘密の片思い


◆第10回
『伊吹先輩とコンクールの舞台に立つ』という夢をかなえるために、部活もがんばろう、と心に決めたさくら。
その夢の、第一歩が始まります!

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪秘密の片思い

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 いじわるな笑顔。頭をなでた大きな手。

 さっきの出来事すべてが、伊吹先輩との秘密だ。

 また、秘密が増えたんだ……。ドキドキと心臓が波打って、顔が熱すぎるよ。

 先輩は、私に恋愛感情なんてないんだと思う。
 頭をなでてくれたのも、まるで猫をかまうみたいだった。

 だから、期待なんかしちゃいけない。

 人気者なのに人をよせつけない伊吹先輩。そんな人に恋をするなんて、もってのほかだ。

 でも、もう止まらない。止められない。心臓の音が加速していく。

 ついに私は、誰にも言えない秘密の恋を自覚した。

 今は、先輩の背中を追いかけるだけでせいいっぱい。

 でも、いつか……。

 先輩のとなりを歩きたい。

 学校中の女子が夢見てる、伊吹先輩の「となり」

 私も、こっそり目指してもいいかな。

 伊吹先輩のとなりから見えるのは、どんな景色なんだろう。

 きっと、キラキラ輝いているんだろうな……。

 ♪

 はっと我に返って時計を見ると、お昼休み終了の10分前だった。

 やばい! あわてて立ち上がり、フルートを持って楽器庫へ飛びこむ。

 そこにはもう伊吹先輩の姿はなくて、たなにカギがポツンと置かれていた。

『職員室に返しといて』

 カギの下には、破ったメモ帳に走り書きがしてあった。

 これ、伊吹先輩の字……? 初めて見る先輩の字に、またドキドキが始まる。

 ただの連絡事項が書かれた紙なのに、宝物級の特別なものに思えてしまうからふしぎだ。

 手早く楽器を片づけて、先輩からのメモをていねいに折ると、ポケットにしまった。

 休み時間は、残りあと少し。授業が始まる前に、カギを返しに行かなくちゃ。

 私は音楽室のカギを閉めて、職員室へと急いだ。

 ♪

 職員室をのぞくと、鈴木先生が、私に気づいてよってきた。

「吉川、どうした? もう昼休み終わるぞー」

「これ、返しに来ました。音楽室のカギ」

 音楽室と、楽器庫と、音楽準備室のカギをジャラッと突き出す。

「あれ? 伊吹は?」

 鈴木先生の口から飛び出たその名前に、どきっとした。

「伊吹先輩に返しておいてって言われて……」

「へぇ~。伊吹がねぇ~」

 ニヤつく鈴木先生に、じわじわと顔が熱くなる。

 わわっ。この先生、ぼーっとしてるように見えて、実はけっこうするどいんだった。

「先生、伊吹先輩と仲いいんですか?」

「俺、あいつの1年の時の担任だもん」

「……そうなんですか」

「あれ、気になってんの? 吹奏楽部って恋愛禁止じゃなかったっけ?」

「えっ!?」

 自分でもびっくりするくらいの大きな声が出てしまって、職員室の先生たちがこっちを見た。

 やばい。動揺して、完全にどつぼにハマってる。

 ヘラヘラ笑ってる鈴木先生に「そんなんじゃない」と言いかけた時、タイミング悪く昼休み終了のチャイムが鳴った。

「ほら、早く教室戻れよー。カギ返しとくから」

「あ、はい。ありがとうございます」

 先生が差し出してきた手に、あわててカギをのせる。

 あー、もう。調子くるうなー。

 チャイムに追われるように、熱いほおを押さえながら職員室をあとにした。
 
 ♪

 1週間後──。

 テストが無事終了し、次の日から部活が再開した。

 私は伊吹先輩のアドバイス通り、必死にフラッタータンギングを練習している。

 だけど……。

「明日から、お昼休みに音楽室を開放します。自主練をしたい人は自由に使ってかまいません。ただし、昼休みなので、音楽室内のみで練習してください」

 部活終了のあいさつの時、部長の高田先輩がそう告げた。

 その言葉で状況は変わってしまったんだ。

 次の日から、1年生が音楽室に練習に来るようになって、伊吹先輩は来なくなってしまった。

 先輩とふたりきりの秘密の昼休みは、終わってしまったんだな……。

 少し残念だけど、私の目標は先輩とコンクールに出ることだ。

 気持ちを切りかえて、昼休みも、部活中も、私はコンクールの選抜メンバーになりたい一心で、ひたすら練習に打ちこんだ。


*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪選抜メンバーオーディション開催(かいさい)!

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

「オーディションまであと1週間かー」

「なんか、みんなピリピリしてて、部内の雰囲気悪いよね~」

 部活帰りに歩きながら、さっこと加代ちゃんはのんきにそんなことを言っている。

「さくら、昼休みも自主練しに行ってるんでしょ?」

「うん、まぁ」

「がんばるねー! 尊敬する!」

「けっこう人来てる?」

「うん。いつも10人くらいは来てるかな」

 思った以上にみんながんばっていて、場所の確保が大変なくらい。

 そういえば、さっこと加代ちゃんは一度も来たことがないな。

「ふたりとも、バッチリなの?」

「ぜんぜん~。あいかわらず伊吹先輩はまったく指導してくれないし」

「パーカッションは、ひとりで何種類も楽器をかけ持ちしないといけないから、いつも大混乱で……。私、かなりやばいよ」

 ふたりともめずらしくテンションが低い。

 確かに、最近の部活は、なんとなくピリピリしてる。

 仕方ないよね。オーディション1週間前だもん。私だってピリピリしちゃう。

 でも、この空気に負けない!

 伊吹先輩と、そしてさっこと加代ちゃんともいっしょに、絶対にコンクールの舞台に立ちたい。

 私はふたりの肩をポンと叩いて、笑顔を向けた。

「オーディションがんばろうね!」

「う、うん……」
「……うん」

 ……あれ? ふたりの返事がものすごく小さい。

 いつもなら、「おーーー!」って、テンション急上昇するはずなのに。

「コンクールの選抜メンバーになったら、朝練と昼練も追加されるらしいよ」


「まじ!? 最悪! 土日も休みないんでしょ? 私たち、部活漬けだよね……」
「吹奏楽部って、こんなに大変だとは思わなかったよ」

 いつも先輩情報ではしゃいでるふたりが、今日はうなだれている。

「あ~~~! 遊びたい!! カラオケずっと行ってないし」

「本当に! メンバーに選ばれないほうがいいかも」

「わかる……もう、部活やめたいかも」

 そうとうつかれているのか、ふたりはぐったりしていた。

 息抜きしたくなる気持ちはよくわかる。

 でも……。

「さっこ、加代ちゃん。がんばろうよ! いっしょにコンクールの舞台に立とうよ!!」

 せっかくがんばってきたんだから、3人でいっしょにコンクールに出たいよ。

「伊吹先輩といっしょにコンクールに出られる、最後のチャンスだよ?」

 私のがんばる理由が伊吹先輩だっていうことはかくして、はげます。

「……そうだよね。伊吹先輩の後ろ姿を見つめられるのも、今年が最初で最後なんだよね」
 よし。加代ちゃん、少し回復。

「私ね、トランぺットになれてラッキーって思ったけど、本番は横一列にならぶから、伊吹先輩をまったく見られないんだよねー。がっかり」

「となりになれないの?」

「絶対無理。先輩ファーストだもん。私、セカンドで練習してるし」

「ふ~ん。で、ファーストってなに?」

「あ、そっか。加代ちゃんはパーカッションだから、ファーストもセカンドもないもんね」

「うん。打楽器の数はすごく多いけどね」

「ファーストはメロディーとか高音が多かったり、ソロがあったりで難しいんだ。セカンドはハモりが多いの。1年生はほとんどセカンドなんだよ」

「1年生でファースト吹いてるの、崎山くんくらいだよね」

「へぇ~~。選抜メンバーになれても、伊吹先輩とラブラブへの道は遠いってわけだ」

 加代ちゃんの言葉に力なくうなずいたさっこが、はぁーっと重いため息をついた。

「この話、言おうかどうか迷ったんだけど……」

「うん」

 ためらいながら口を開いたさっこに、加代ちゃんが真面目な顔でうなずいた。

「伊吹先輩ね、ものすごく荒れてた時期があったんだって」

「荒れてたって、どんな感じで?」

「ケンカばっかりしてたらしい」

 顔をこわばらせた加代ちゃんは、さっこのその言葉で一転、満面の笑みになった。

「伊吹先輩、ちょっと悪かったんだ! むしろかっこいいじゃん!」

 うーん。伊吹先輩が、ケンカかぁ……。

 あのにらみとスゴみを考えると、想像できなくはないけど……。

 それよりも、もしそれが本当なら、なにかあったんじゃないかって心配になる。

「それだけじゃなくて、そうとう女の子を泣かせていたみたい」

「ウソっ!?」

「近よってくる女子を、ことごとく塩対応でフッてたんだって」

「うそ~~~!? それはちょっとショック」

「まぁ、うわさだけどね。でもテンション下がるよね……」

 ふたりはため息をついて、昔話のおばあちゃんみたいに丸くちぢこまった。

 人気者の先輩でも、こういううわさがたつんだな……。ずきりと胸が痛む。

 注目されるほど、本当かウソかわからないようなうわさを流す人が増えるんだろうか。

 ひとりで淡々と練習に打ちこむ先輩の後ろ姿を思い出して、悲しくなった。

 ♪

 その後も、部活をやめかねないぐらいテンションの低いふたりを、なんとかはげましながら、練習漬けの日々を過ごした。

 オーディションの日は、どんどんと近づいてくる。

 課題曲も、自由曲の『海の男達の歌』も、一通り吹けるようにはなったけれど、音はきたないし、細かい動きは正確じゃない。

 それでも、ある日突然、フラッタータンギングができるようになったことが救いだ。

 3年生も苦戦するフラッタータンギングができたことがうれしくて、私は少し自信を持ち始めていた。

 きっと大丈夫。 

 伊吹先輩のアドバイス通りがんばったんだし、あとは全力でいどむしかない!

 ♪
 
 そして、ついにオーディションの日を迎えた。

 1年生全員がひとりずつ、指揮者の北田先生の前で課題曲と自由曲の一部を演奏する。

「どうしよう。けっこうまちがえちゃった」

「私も……頭が真っ白になって、2回も止まっちゃったよ」

 そんな声が聞こえてきて、緊張で手がふるえたけど、なんとか私も吹き終えた。

「全員、音楽室に集合してください」

 部長の言葉にみんなが移動する。いよいよ選抜メンバー発表の時が来た!

「きききき緊張するね」

「う、うん。……どうしよう。私、ダメかも」

「大丈夫! きっと選ばれてるって信じよう!」

 こわばった顔のさっこと加代ちゃんにそう言ったけれど、私の顔も引きつっている。

 内藤さんも青ざめた顔をしている。

 サックス経験者の崎山くんだけが余裕の表情だ。

 この音楽室のどこかに、伊吹先輩もいるんだよね……。

 なんだか意識しちゃって、チラッと見ることすらできない。

 張りつめた空気の音楽室に、ざわめきが走る。ついに、先生が来た。

「コンクールに出場する、選抜メンバーを発表する」

 いよいよだ。心臓がぎゅっとちぢこまった。

 少しの不安とたくさんの期待で、張り裂けそうになりながら、先生をみつめる。
 
 でも……。

 結局、私の名前が呼ばれることはなかった……。
 

 

やる気ゼロのさくらが、ようやく見つけた目標
『先輩といっしょにコンクールに出る!』
……が、早くもくだけてしまった!?

どうしようもない、やり場のないなやみをかかえてしまったさくら。
そのなやみに、伊吹先輩が答えをくれる……? 
次回もお楽しみに!

次回、第11回もおたのしみに!(第11回は11月15日午前10時公開予定!)

もくじに戻る
 

関連記事

関連書籍

君のとなりで。 音楽室の、ひみつのふたり

君のとなりで。 音楽室の、ひみつのふたり

  • 【定価】 704円(本体640円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319456

紙の本を買う

  • カドカワストア
  • アマゾン
  • 楽天

電子書籍を買う

  • BOOK WALKER