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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第9回 秘密のレッスン


◆第9回
意外な展開で、さほどキョーミのなかった学校イチのイケメン・伊吹先輩にまさかの恋をしてしまったさくら。
始まったばっかりの恋に、はやくも新しいイベントが!?
どきどきとキュンいっぱいの第9回です!

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪秘密のレッスン

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 テスト前日になっても、私の頭の中にはチョウチョがひらひらと舞っている。

 伊吹先輩の秘密。見たことのない、自然な笑顔。

 あんな至近距離でみつめられたら……どんな人でも恋に落ちちゃうよ。

 でも、ダメだ。部活内恋愛は禁止だし、今さらさっこと加代ちゃんに言えるはずがない。

 そうやって自分に言い聞かせるけれど、この気持ちはもう止められそうもなくて。

 お昼休みに突入したとたん、私は猛スピードでお弁当を食べて、音楽室に向かった。

 私には、さらに大きな目標ができたんだ。

 伊吹先輩は今年で引退。先輩とコンクールに出場できるのは、今年が最初で最後。

 絶対に、この機会を逃したくない。

 どうしても先輩とコンクールのステージに立ちたい。

 いっしょに演奏したい!

 だから……。考えたすえに、私は体当たりすることにした。

 ♪

 テスト前日だけど、先輩が練習をしているかもしれないと思って、来てみると。

「……開いてる」

 音楽室は鍵が開いていた。

 そっと中に入ると、いつも通り伊吹先輩のトランペットの音色が聞こえてきた。

 やっぱりいた! どきんと胸が高鳴る。

 いつもは、ジャマにならないように楽器庫に直行するんだけど、今日は目的があるから。

 私は大きく深呼吸をすると、思い切って準備室のドアをノックした。

 どうしよう。緊張しすぎて、体中がふるえてしまう。

 少し待つと、トランペットの音色が止んだ。

 今だ!

「し、失礼します!」

 女は度胸(どきょう)! ぐっとこぶしをにぎりしめて、準備室のドアに体当たりをした。

「伊吹先輩!」

 ドアを開けると、楽器を持った先輩が、ふきげんな顔でこっちを見た。

 うっ。怖い……。私は勇気を出して、準備室に足をふみ入れた。

「なに?」

 その声と表情が、いつもの先輩と少しだけ違う。

 ほんの少し、うろたえてるような……。

 よし、行け! 私!!!!

 思いっきり息を吸いこんだ。

「先輩! 私、どうしてもコンクールに出たいんです! だから、ほんの少しでいいんです! ご指導お願いします!!!!」

 思いのすべてをこめて、勢いよく頭を下げた。

「……やだよ。めんどい」

 うっ。ですよね。

 一切指導しないって、さっこや加代ちゃんからの情報で聞いていたし。

 でも、塩対応になんて負けない! 顔を上げて、ぐっと先輩を見すえた。

「先輩の秘密、バラしますよ……」

 そのひとことに、先輩は言葉につまって、ドカッとイスに座った。

「いい度胸(どきょう)じゃん」

 ふふふふ。先輩、動揺しているのがわかりますよ。

「そのくらい、本気のお願いなんです! 5分でいいですから!」

 祈るように先輩の顔をみつめる。

 しばしの沈黙のあと、はぁーというため息と共に、先輩がトランペットを机の上に置いた。

「ホント最悪。めんどくさい。……30秒で楽器持ってこい」

 きゃっ! やったっ!

「わかりましたっ!」

 先輩の気が変わらないうちに、私は猛ダッシュで楽器庫にフルートを取りに行った。

 ♪

 私は、イスに座っている伊吹先輩の前に、フルートを持って立つ。

 先輩は「スコア」に視線を落とした。

 そこには、課題曲と自由曲の、すべての楽器の楽譜が書いてある。

「フルートの1年は、全員はコンクールの選抜メンバーにはなれないだろうな」

「……はい」

 窓からさしこむ光が、先輩の横顔をキラキラてらしている。

 はっ! やばい。先輩にみとれてる場合じゃない。集中しないと!

 あの伊吹先輩に教えてもらえる、めったにないチャンスなんだから。

 気を引きしめて先輩の言葉に耳をかたむける。

「まずは課題曲も自由曲も、すべて吹けることが大前提」

「はい……」

 うっ。高い音、ちゃんと出さずに、吹きマネしてたんだよね……。

 苦手な音を出せるようにならなくちゃ。

「あと、課題曲の頭に、フルートだけで吹くところがあるだろ? 『フラッタータンギング』の」

 ふ、フラッタータンギング!?

 フルートの楽譜は、ファーストフルートセカンドフルートに分かれている。

 ファーストは、パートリーダーやうまい先輩が担当している。

 セカンドより高い音を出したり、動きがむずかしかったりするから。

 課題曲には、なんと! ファーストフルートだけが吹くメロディーがある。

 しかも、フラッタータンギングという技を使う。

 フラッタータンギングとは、舌の細かい動きで音をふるわせる、管楽器の演奏方法だ。

「フラッターを完璧にできるようにしろよ。3年生でも、まだ完璧にできるやつはいないから、チャンスだ」

 まさかのありがたいお言葉……!

 伊吹先輩から、本当にアドバイスをいただけるなんて!

 だけど……ハードルが高すぎて、できる気がしない。

「フラッター……ですか……」

 普通のタンギングですら下手なのに……。

 不安でいっぱいの私をちらりと見て、先輩は再び口を開く。

「普通のタンギングが下手でも、フラッターはできるっていうやつもいるから」

 うおっ! 私の心の中を読んだかのような、先輩の言葉におどろく。

「あの、フラッタータンギングってどうやるんでしょうかね……」

 聞いてから、ふと気づいた。

 トランペットの先輩に聞いたって、わかるわけがないよね。

 だけど、先輩は手の平を私に突き出した。

「フルート貸せよ」

「えっ!? あ、はい。先輩フルート吹けるんですか?」

 オドオドしながらフルートを差し出す。

「姉貴がフルート吹いてて、遊び程度に仕込まれたんだよ」

 それを受け取りながら、先輩はそう言った。

「お姉さん、フルート吹いてたんですね!」

「2年前の卒業生」

 へぇぇ~~~~!

 ということは、お姉さんは黒羽中が初めて県大会に出場した時に、3年生だったんだ!

 もしかしたら伊吹先輩は、お姉さんがいるから吹奏楽部に入ったのかな?

 思わず口がゆるんでしまう。

 すると、先輩はどんどんふきげんになっていった。

「いいからちゃんと聞いとけよ」

 ひとりでキュンキュンしていた私の目の前で、先輩はフルートをかまえて……。

 ためらうことなく、マイフルートちゃんに口をつけた。

 ぎ……ぎぇぇえええぇぇぇ~~~~~~!!!!!!!!

 私のフルートを、先輩が……。

 あの伊吹先輩が吹いてる!!!!

 伊吹先輩は、いとも簡単に、かんぺきなフラッタータンギングを吹いてみせた。

 トランペットだけじゃなくて、フルートまでできるなんて。しかも、こんな高度な技……。

「こんな感じ。息を出しながら、巻き舌でt・r・r・r・r(トゥ・ル・ル・ル・ル)ってやんの。やってみろよ」

 そう言ってフルートを私にもどした。

「は、はい」

 受け取ると、まじまじとその吹き口を見つめてしまう。

 どうしよう。心臓はバクバクいってるし、顔は熱いしどうしよう。

 フルートを持ったまま固まっている私を見て、先輩はにやっと笑った。

「なに? もしかして、間接キスってドキドキしてるわけ?」

「……っ!」

 息を詰めてしまった私のバカ。

「いっ……いやー先輩、なに言ってるんですか! そんなわけないじゃないですか。小学生じゃあるまいしー。あははー」

 とっさにそう返したけれど、まぎれもない全力の強がりだ。情けない……。

 余裕たっぷりな先輩が、いじわるな笑顔を向けた。

「ふーん。間接キスじゃ、足りない?」

「えっ……」

 ちょっと待って。この展開、どっかで……。あ、さっこと加代ちゃんの青春劇場だ! 

 ガタッというイスの音で我に返ると。

 立ち上がった先輩が、ソロを決めた時のようなドヤ顔で私を見下ろしていた。

 わわっ。近い……! 心臓がはね上がる。

 固まった私を見て、先輩は楽しそうに笑って……。

「がんばれよ」

 そう言って、くしゃっと私の頭をなでた。

 先輩は自分の楽器を持ち、準備室を出ていく。

 のこされた私は、先輩が去っていったドアを見つめたまま、へなへなとすわりこんでしまった。

 

なんでもできちゃう、伊吹先輩。
しかも、最後の「がんばれよ」なんて、反則です……!
またひとつ、だれにも言えない「先輩とのふたりだけのひみつ」がふえてしまった、さくら。
練習をがんばるさくらに、次回、大きな試練が立ちふさがる!
次回もお楽しみに!

次回、第10回もおたのしみに!(第10回は11月14日午前10時公開予定!)

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