連載

  1. ホーム
  2. 連載
  3. 小説
  4. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい!
  5. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第8回 先輩の秘密

【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第8回 先輩の秘密


◆第8回
さくらの、自分ではどうしようもできないピンチを救ってくれたのは、クールで無口で、感じ悪い、と思っていた、学校イチのイケメン・伊吹先輩。
さくらの気持ちは、だんだん変わっいって……?
ときめきいっぱいの第8回です!

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

先輩の秘密

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 いつの間にか、私は伊吹先輩を目で追うようになっていた。

 ぶっきらぼうで感じが悪い伊吹先輩の、ほんの少しの優しさを知ってしまっただけで。

 攻撃的な音だけじゃなく、あんなにやわらかくて美しい音も出すんだってわかっただけで。

 クールでいつもふきげんそうな先輩の、いじわるなほほ笑みを見てしまっただけで。

 私のドキドキは止まってくれない。

 そんな伊吹先輩と「お昼休みの秘密」を共有しちゃってるなんて信じられない。

 しかも、私がこんなにドキドキしてるなんて、誰にも言えない!
 
 ♪

 日曜日の今日、電車を乗りついで、私はひとりで買い物に来ていた。

 大きな街の楽器屋さんに入ると、楽譜売り場に向かう。

「あった! これだ」

 フルートの先輩がいつも使っている練習曲の楽譜を手に取って、パラパラ見てみた。

 うーん。むずかしそう。値段もけっこうするし、買うかなやんじゃう。

 でも、うまくなりたいな。

 いったんもどして、ほかのたなに視線をうつす。

 あ! トランペットの楽譜だ。

 中を見てみると、有名な曲がたくさん。『カンタベリー・コラール』もある!

 目の前で、私だけのために吹いてもらえたらなぁ……。

 はっ!!!!

 伊吹先輩のことを考えてしまっている自分に気づいて、思わず赤面してしまう。

 やだやだ。はずかしくなって、トランペットの楽譜をたなにもどそうとした、その時。

「ちょっと、楓~! こっちじゃない?」

 楓、っていう名前に反応して、反射的に振り向いた。

「これ?」
「あっ! あった! ありがとう、楓。えらいえらい」
「ちょっ……やめろって」 

 そこには、年上っぽい女の人に頭をなでられて、逃げている伊吹先輩がいた!

 うそ~~~~~~~~~~~!?

「えっ!?」

 衝撃の場面を目撃しちゃって、つい声が出てしまった。

 そのせいで、イチャイチャしてる伊吹先輩と目が合う。

 うわっ! ヤバイ!

 見てはいけないものを見てしまったうえに、それを本人に知られてしまった!

 トランペットの楽譜をすばやくたなに戻して、あわてて逃げ出す。

 もしかしたら上下逆さまに戻してしまったかもしれないけれど、直す余裕なんてない。

 店員さん、ごめんなさい!

 後ろを振り向かず、とにかく走った。

 ♪

 次の日になっても、私は朝からずっともやもやしていた。

 いつもはさわがしいさっこと加代ちゃんも、テスト2日前の今日は、電車の中で教科書を広げて熱心に暗記している。

 私はひとり、ぼーっと昨日の楽器屋さんでの出来事を思い返していた。

 あの年上っぽい女の人、きっと伊吹先輩の彼女だよね。

「楓」って、名前で呼んでた。

 先輩のとなりは、あの彼女さんの居場所なんだ……。

 すごく美人だったな。伊吹先輩とおにあいだった。

 それに、先輩のあの顔。部活じゃ絶対に見せない、あんな気をゆるした顔をするなんて……。

 彼女さんは、私たちが知らない伊吹先輩をたくさん知ってるんだろうな。

 私と伊吹先輩の「お昼休みの秘密」なんて、なにも特別なことじゃなかった。

 胸がズキズキ痛むよ……。

「はぁ……」

 うっかり出てしまったため息を、ふたりが聞き逃すわけがなかった。

「あれ~? さくら、ずいぶん悩ましげなため息だねぇ」
「崎山くんとなにかあった~?」

 あきれた顔を作って、首を横に振るのがせいいっぱい。

「でもねぇ、加代ちゃん」
「そうさねぇ、さっこ」

 ちょいちょい出てくるふたりのジジババキャラに、今はなんだかイラッとしちゃう。

「なによ」

「それ、恋する乙女のため息でしょ」

 ……。恋する乙女か……。

 そうなのかもしれない。でも、もう終わっちゃったんだよ。

 私、いつもこんなのばっかりだ。好きって自覚したとたんに、終了するの。

 今は、伊吹先輩に彼女がいることを、ふたりに話す元気もない。

 テスト期間は、部活がしばらくお休みでよかった。

 伊吹先輩に会ったら、もっと落ちこんじゃいそうだから。

 部活が始まるまでには、元気になろう。

 また暗記に集中し出したふたりをよそに、私は電車の窓の外をぼーっとながめつづけた。

 ♪

「おい、そこのフルート」

 放課後、ひとりで帰ろうとしていた私は、そんな乱暴な言葉で呼び止められた。

 今一番、心に刺さるその声は、きっと空耳だ。

 ふるふると頭を振り、昇降口のドアを開こうとすると。

「フルート、てめぇ」

 突然、目の前に黒い影が立ちふさがった。

「ひぃ!」

 おどろきのあまり、私は思いっきりしりもちをついてしまった。

「いいいいいい伊吹先輩!!!!」

 目の前にあらわれたのは、まさしくその人。

 しかも若干(じゃっかん)ごきげんナナメ。

「シカトとはいい度胸(どきょう)だな」

「あ、あの、空耳かと思って……」

「お前の頭ん中はお花畑かよ」

 それはさっこと加代ちゃんです!

 心の中で必死にツッコむけれど、伝わるわけがない。

「ちょっと来い」

「えっ?」

「いいからちょっと来い」

 ギロッとにらんで、伊吹先輩は階段を上がっていく。

「あれ伊吹先輩じゃない?」
「ホントだ! ちょーかっこいい!」
「こんな近くで見ちゃった!」
「後ろにいるあの子、吹奏楽部?」
「伊吹先輩のヤキ入るんじゃない?」
「先輩、去年もひとり、吹奏楽部員シメたらしいじゃん」
「まじでー? うけるー」

 いや、ぜんぜんうけないんですけどっ!

 どどどどどうしよう……。

 周りから、恐ろしいことが聞こえてくるよー!

 でも、このまま逃げたら二度と部活に行けなくなりそう。ついていくしかないみたい。

 突然の伊吹先輩の出現に、あたりはざわついている。

 緊張でふるえる足をなんとか動かして、先輩のあとに続いて階段を上がった。

 私の足は、まるで生まれたての子鹿のようにぷるぷるしている。情けない……。

 階段を上って右にまがり、少し歩くと、すぐに音楽室に突き当たる。

「入れ」

 カギを開け、ごていねいにドアまで開けてくれた伊吹先輩は、紳士的なしぐさとは裏腹に、大変ふきげんなご様子……。

「失礼します……」

 音楽室に入ったと同時に、バタンとドアを閉められて、わかりやすくビクついてしまう。

 そんな私を見下ろしながら、伊吹先輩は腕を組んだ。

「フルート」

「あ、あの。私、吉川さくらでございます!」

 ああ。私のバカっ! 緊張しすぎて、突然名乗ってしまった。

「……吉川さくら」

「はい」

「お前、昨日……」

「いえ、先輩! 大丈夫です! 誰にも言いません! ていうか、なにもかくすことないじゃないですか。部内じゃないなら恋愛してもいいんですよね?」

 先輩の言葉をさえぎるように、マシンガンのようにしゃべり倒す。

 あー。心がヒリヒリ痛い。これが、まさしく傷心(しょうしん)!

 アワアワしている私をちらりと見た先輩は、深いため息をついて、両手をズボンのポケットに突っこんだ。

 だめだ。かっこいい。

 みとれそうになっていると、先輩がゆっくりと口を開いた。

「……あれは、姉貴だ」

「へ……?」

 お姉さん!? まさか!

「え、いや、だって……。先輩、なんか、いいフンイキでしたし……」

「そんなわけないだろ」

「そんなわけありましたよ。はっ! 先輩、もしかして……。お姉ちゃんっ子……ふがっ!」

「それ以上言うな」

 最後まで言う前に、先輩の大きな手が私の口をふさいだ! 

 ぎゃっ! 先輩の顔が近すぎる!!!

 めっちゃくちゃかっこよくて、息が、息ができない!

 それに、ほんの少しだけあせってるみたい……?

 うわ! 先輩のこんな顔を見れちゃうなんて、信じられない。

 金縛りにあったみたいに動けないでいると、先輩は私をギロッとにらんだ。

「絶対だれにも言うなよ?」

 必死にうなずくと、やっと口から手をはなしてもらえた。

 わ~~! 伊吹先輩の秘密、知っちゃった……!

 それに、きっと誰も見たことがない、伊吹先輩の意外な表情を見ちゃった。
 思い出すと、勝手に顔がゆるんでしまいそう。

「変なやつ」

 伊吹先輩はあきれたように息をついた。それだけで胸キュン容量がオーバーしそうなのに。

「でも……。お前さ、ちゃんと笑えるじゃん」

 そう言って、伊吹先輩はフッと笑った。

 初めて見るその表情に……。

 私は完全に、恋に落ちてしまった。

とつぜん知ってしまった、伊吹先輩の意外な秘密と、ふいうちの笑顔に、ついに始まってしまったさくらの恋。
このあと、いったい、どうなっちゃうの!?
次回をお楽しみに♪

次回、第9回もおたのしみに!(第9回は11月13日午前10時公開予定!)

もくじに戻る
 

関連記事

関連書籍

君のとなりで。 音楽室の、ひみつのふたり

君のとなりで。 音楽室の、ひみつのふたり

  • 【定価】 704円(本体640円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319456

紙の本を買う

  • カドカワストア
  • アマゾン
  • 楽天

電子書籍を買う

  • BOOK WALKER