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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第6回 先輩の気まぐれ


◆第6回
クラスメイトとのすれちがいに苦しむさくらの前にあらわれた、「崎山くん」という、心づよい味方。
第6回目の今回は、さらに、心づよすぎる味方があらわれる!?
ここからの展開、ぜったい注目!!です!!!

 

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

♪先輩の気まぐれ

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

 教室に戻ると、案の定冷たい視線が胸に突き刺さった。

 

「なんなの、あの子。どうして崎山くんが……?」

 

 そんな声が聞こえてきたけれど、誤解をとく勇気はない。

 

 内藤さんはものすごく怖い顔をしている。

 

 崎山くんのことが好きっぽいから、気まずいな。

 

 その日から、掲示板の書きこみはエスカレートしていった。

 

 ♪

 

 それは、掲示板で書きこみされるようになってから2週間が過ぎたころ。

 

 昼休みの練習の成果もあって、私はビン練習を卒業し、念願の楽器練習を始めていた。

 

 ひとつひとつ音を出すのが楽しくて、その日は部活が終わっても残って練習を続けていた。

 

 部員はもうほとんど帰っていて、音楽室はひっそりしている。

 

 音楽室を先に出ていたさっこと加代ちゃんに合流しようと、楽器庫のドアに手をかけた時。

 

 中から聞こえてきた会話に、思わず手が止まった。

 

「そうなんだ~。そんなに掲示板でたたかれてるんだ、あの子」

「確かにやり方がきたないって思ってたんだよね。いきなりフルート買ってきてさー」

「そうそう。なりふりかまわないっていうか」

 

 それは、クラリネットの先輩たちだった。そして……。

 

「そうなんですよー。クラスでもハブられてるんですよね。ま、仕方ないですよねー。性格悪……あ、言いすぎました~。やだぁ~! ないしょですよ~?」

 

 そう言って、先輩と笑い合っていたのは、内藤さんだった……。

 

 やっぱり、あの掲示板は内藤さんが仕組んだことなの?

 

 確かに、フルートを買ったって言わなかった私も悪いし、イヤな思いをさせてしまったかもしれない。

 

 でも、見えないところでこういうやり方をされたら、あやまることも説明もできないよ。

 

 心がじくじく痛んで、今にも泣きそうだった。

 

「あの子さ、楽器買ってまでフルートになったのに、下手だよね」

「ほんとそれ。楽器がかわいそー」

 

 その言葉が、さらに重く心に突き刺さる。

 

 私、部活でもひとりぼっちになっちゃうのかな。

 

 悲しくて、くやしくて、じんわりと涙がにじんできた。

 

 ドアの前でうつむいたまま、立ちつくすことしかできない。

 

 楽器、片づけなきゃ。さっこと加代ちゃんが待ってくれている。

 

 楽器庫に入らなきゃ。でも、体が動かない。

 

 その時、私の背後から男子の腕がのびてきて、ノブをつかんで、勢いよくドアを開けた。

 

 ぐんと視界が広がる。

 

 楽器庫の中では、クラリネットの先輩たちと内藤さんが、おどろいた顔でこっちを見ていた。

 みんなの視線は、私の後ろに向けられている。

 

「あ、伊吹先輩~」

「先輩、おつかれ様ですー」

 

 先輩たちは、取りつくろうような笑顔で私の後ろを見ている。

 

 後ろにいるのは、やっぱり伊吹先輩なんだ。

 

 あわててよけると、ふきげんそうな伊吹先輩が横を通り抜けていった。

 

 先輩、怒ってる……。

 

 背中から発してるピリピリした空気に、体がちぢこまって動けない。

 

「くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ」

 

 クラリネットの人たちに、伊吹先輩が言い放った。

 

 ──えっ……?

 

 おどろいたのは私だけじゃなかった。

 

 クラリネットの人たちも、私と同じく固まっている。

 

 しばらくして、伊吹先輩が楽器の片づけを始めると、時間が動き出した。

 

「す、すみませんでした」

「失礼します」

 

 クラリネットの先輩たちと内藤さんは、ひきつった顔でバタバタと楽器庫を出ていった。

 

 ♪

 

 楽器庫に、伊吹先輩とふたりきりになってしまった。

 

 先輩が楽器を片づけている音だけが響く。

 

 私もあわてて楽器を片づけ始めた。

 

 伊吹先輩……もしかして、私をかばってくれたのかな。

 

 変な緊張で、のどがカラカラにかわいてしまっている。

 

 そんなんじゃないよね。きっとこれは先輩の気まぐれ。

 

 楽器をふきながら、チラリと先輩をぬすみ見る。

 

 私の視線に気がついたのか、先輩が口を開いた。

 

「とやかく言われたくなかったら、誰よりも上手くなれよ」

 

 その言葉に、楽器を片づけていた手が止まる。

 

「フルート吹けるだけで満足するな。ほかの楽器に回ったやつのぶんもがんばれば?」

「はい……」

 

 なんとか声を振りしぼったけれど、立っているのがやっとだった。

 

 伊吹先輩の言う通りだ。

 

 昼休みの練習は、ただの時間つぶしで、上手くなりたいっていう強い思いはなかった。

 

 それに、内藤さんと同じ経験をしている私は、希望の楽器になれなかった、くやしい気持ちがわかるはずなのに……。

 

 だけど。

 

 ここまでされなきゃいけないことかな?

 

「……自分が受けた仕打ちに対して、相手に罰を与えることよりも、どうやってゆるすかを考えたほうがいいと思うけど」

 

「……!」

 

 私の心を読んだかのような先輩の言葉に、なにも言い返せなくてうつむいた。

 

 そんな私の後ろをさっそうと通り過ぎ、伊吹先輩はドアへと向かう。

 

「陰口たたいたり、あることないこと言うヤツなんて、劣等感まみれだとしか思わない」

 

 そう言い残し、伊吹先輩は楽器庫を出ていった。

 

 ひとり残された私は、ぼうぜんと立ちつくすことしかできなかった。

 

 ──劣等感まみれ。

 

 先輩の言葉が、自分に向けられたように感じたから。

 

 ふいに、崎山くんの言葉を思い出した。

 

『自分がやったことって、必ず自分に返ってくるから』

『いつか必ず【しわよせ】が来るよ。形を変えてでも』

 

 受験に失敗した私は劣等感まみれで、でもそれを、みとめたくなくて。

 

 無気力をよそおって、いじけていた。

 

 そんなどんよりとした気持ちが、顔に出ていたんだと思う。

 

 掲示板に書きこんだ人たちは、私の暗い顔を見て、悪口を言いたくなったのかもしれない。

 

 私がいつも笑顔でいれば、こんなことは起こらなかったのかもしれない。

 

 今の状況は、自分のせいでもあるんだ……。

 

 それに気がついて反省をしたら、次は前に進むしかない。

 

 先輩が言ったように、罰を与えるんじゃなくて、どうやってゆるすかを考えよう。

 

 新たな気持ちでそうちかって、私はフルートを手早く、でも大切に片づけた。

 

 そして、音楽室の外で待っていてくれているさっこと加代ちゃんに、笑顔で駆けよった。

 

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

昼休みの真実

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

「ちょっと聞いてっ! 今日はなんとっ!」

 

 部活後、学校を出て歩き出したとたん、さっこが鼻息荒くせまってきた。

 

 もったいつけてそこで言葉を区切り、私と加代ちゃんの反応を見ている。

 

「なになに~~? 今日はどんな伊吹先輩情報!?」

 

 入部後は、楽器ごとのパート練習がほとんど。

 

 念願かなってトランペットパートになれたさっこは、毎日新しい伊吹先輩情報を持ってくる。

 その情報に、加代ちゃんはいつもわかりやすく食いついていて、見ていて面白い。

 

「今日のネタはすごいよ~。なんと! 伊吹先輩の下の名前がわかったの!」

 

「きゃ! うそ! 教えて~~~~!」

 

「唐揚げ棒1本でどうだ!?」

 

「買う買う~~~!」

 

 うーん。このふたりはいつも平和だな~。

 

 加代ちゃんは唐揚げ棒1本とひきかえに、伊吹先輩の下の名前を耳打ちで教えてもらって、キャーとか、かっこいい!とかジタバタしてる。

 

「さくらは??」

 

 お客さん、唐揚げ棒1本ね~と言ってるさっこの手をペしっとたたく。

 

「私はいりません~」

 

「さっこ、さくらは伊吹先輩ファンじゃないから」

 

「そっかー。てゆーか、さくら、崎山くんといい感じだったって聞いたけど?」

 

「そうそう。崎山くんがさくらのクラスに乗りこんで、手をつないで逃走したとか」

 

「私はさくらがゴリ押ししてるって聞いたよ~」

 

 いやいやいや。どうしてそんな話になってしまってるんでしょうか。

 

「全部ウソだよ」

 

 崎山くんが興味を持ってるのは私じゃないんだよなぁ。

 

 秘密だけど。

 

「ま、うちらは応援してるから!」

「そうそう。先生とか先輩たちにバレないようにうまくやりなよ~」

 

「それより伊吹先輩がね~~」

 

 あっという間にまた伊吹先輩トークに戻ったふたりに、あきれちゃう。

 

 でも……。さっきの出来事のせいか、私もちょっとだけ聞きたくなってる。

 

『くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ』

『とやかく言われたくなかったら、誰よりも上手くなれよ』

 

 あの時の先輩の言葉が耳からはなれなくて、ドキドキしちゃう。

 

 ふたりの伊吹先輩トークに、聞き耳を立ててしまう自分にあせった。

 

 ♪

 

 次の日、ひやひやしながら部活に行った。

 

 昨日の陰口が広まっていたらどうしよう……って、弱気になっていたけれど。

 

 伊吹先輩の注意が効いたらしく、なんの問題もなく部活を楽しめた。

 

 悪口を言っていたクラリネットの先輩たちとは少し気まずいけれど、いやがらせもない。

 

 そしておどろくことに。

 

「吉川ー、部活がんばってるんだってなー。まぁ、色々あると思うけどあんま気にすんなよー」

 

 いきなり鈴木先生にそう言われた数日後、あの掲示板が消えた。

 

 なやみの種がひとつへったし、教室に入る瞬間も怖くなくなった。

 

 内藤さんやそのまわりの女の子たちにはあいかわらず無視されている。

 

 でも、いっしょにお弁当を食べてくれたり、仲よくしてくれる子もいて、前より楽しくクラスにいられるようになっていた。

 

「ごちそうさま~。ちょっと行ってくるね」

 

「うん! ていうかさくらちゃん、お昼休みはいつもいないよね。さては、彼氏できたな~?」

 

「あはは。ちがうよ~。行ってきます」

 

 お弁当を食べた後に音楽室に行く日課は、まだ続いていた。

 

 今は、本気の自主練習をしている。

 

 伊吹先輩が目当てなわけじゃなくて、上手になりたい一心だった。

 

 内藤さんのぶんもがんばるって決めたし、だれにも文句を言われないくらい上手くなりたいから。

 

 伊吹先輩にぴしゃりと言われたあの日から、私は変わったんだ。

 

「よし! やるからには、とことんがんばろう!」

 

 小さく気合いを入れて、フルートをかまえた。

 

 ♪

 

 私には、「吹奏楽コンクール出場」という、大きな目標ができた!

 

 7月の地区予選と、8月の県大会、そして9月の関東大会を突破して、10月の全国大会に初出場したい。

 

 でも、大会には部員全員が出られるわけじゃない。人数に制限があるんだ。

 

 選抜メンバーを決めるオーディションは1ヶ月後。

 

 だから私は、伊吹先輩の迷惑オーラにも負けず、昼休みの自主練習をがんばり続けていた。

 

 ♪

 

「今日は、私も伊吹先輩情報仕入れたんだ~」

 

 入部して1ヶ月半。

 

 帰り道を歩きながら、おなじみのイケメン情報交換の時間が始まった。

 

 最近はすっかりパーカッションの先輩に夢中だった加代ちゃんが、とくいげに笑う。

 

「なんと! 伊吹先輩が! お昼休みに! 音楽室で、ひとりで練習してるらしいよ~~!」

 

「うそ!!!!」

 

 うっ……。

 

 ぐいっと飲んだペットボトルのお茶で、むせそうになる。

 

「ちょー行きたい! 明日のお昼休み、こっそり行っちゃう!?」

 

 目をキラキラさせたさっこに、加代ちゃんは大げさに首を振った。

 

「それがね、先輩とふたりきりになれるチャンスだからって、過去に何人もの人が乗りこんでるんだけど、思いっきりにらまれて、みんな撃沈してるんだって」

 

「にらまれて……撃沈……」

 

「そう。誰ひとり、伊吹先輩と熱い昼休みを過ごせた人はいないらしい」

 

「誰ひとり……!」

 

「だから、『昼休みは音楽室に近づかない』っていうのが女子のルールになってるらしいよ」

 

「怖い……でもにらまれてみたい」

 

「……」

 

 お昼休みに音楽室で、先輩とふたりで練習してるなんて、口が裂けても言えない!

 

 そんなルールがあったなんて、知らなかった……!

 

 もう、昼休みに音楽室に行くのは、終わりにしよう。

 

 夕映えの空の下、そんなことを考えながら歩いていると、なぜだかむしょうに切なくなった。

 

伊吹先輩と、音楽室でふたりっきりですごして、
先輩の演奏を聞いていた……なんて、ぜったいに言えない!
それに、こんな話を聞いちゃったら、もう、
昼休みに音楽室に行くことなんてできない……。
そんなさくらが、次の日に起こした行動とは!?

次回、第7回もおたのしみに!(第7回は11月11日午前10時公開予定!)

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  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319456

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