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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第5回 もうひとりの王子様との秘密


◆第5回
クラスメイトの内藤さんとの間に起こったトラブルに、心が折れそうになりかけたさくらを救ってくれたのはイケメンだけど、感じが悪いとばっかり思っていた、伊吹先輩のすてきな演奏だった……。
今回は、さらに、みんなに大人気の「あの人」がさくらの前に登場します!

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

♪もうひとりの王子様との秘密

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

 それから数日経っても、私はクラスでひとりぼっちのままだった。

 

 さっこや加代ちゃんといる登下校の時間だけが、救いになっている。

 

 それがなかったら、もしかしたら心が折れて、学校に通えなくなっていたかもしれない。

 

 お昼休みは、仕方なく音楽室に来ていた。

 

 でも、音楽室には毎日伊吹先輩がいて……ものすごく気まずい。

 

 伊吹先輩にジャマそうな顔をされようが、不機嫌オーラを出されようが、教室で息を殺しているよりはマシだ。

 

 そんなある日。

 

「吉川さん、いる?」

 

 昼休みが始まるとすぐに、まさかの人があらわれた。

 

 ズカズカと教室の中に入って私の席に来たその人は、サックスの崎山くんだった。

 

「崎山くんだ……」

「かっこいい」

 

 そんな声が、周りからポツポツと聞こえてくる。

 

 耳に入ってるのか、いないのか……いや、多分ばっちり聞こえてるんだろう。

 

 崎山くんは、サラサラした髪をかきあげながら、ほほ笑んだ。

 

 うわっ。

 

 私、クラスではなるべく存在を消してるのに。

 

 このド派手な人のせいで注目を集めてしまってる。

 

 崎山くんは、イケメン1年生としてかなり有名らしくて、たまに先輩たちも音楽室にまで見に来るほど。

 

 そんな人気者が、私になんの用!?

 

「なに……?」

 

「ちょっと来て」

 

「えっ? わっ……ちょっと……!」

 

 崎山くんは、あっという間に私の手首をつかんで、歩き出した。

 

 部活でもぜんぜん話したことがないのに、どうして突然こんなことになってるんだろう!

 

 わけもわからず、崎山くんに連れられて教室を出る。

 

 女子の視線が痛い!

 

 そして、なによりも……内藤さんの顔が、ものすごく怖かった。

 

 ♪

 

 1年生の教室から少し離れた、ろうかのすみっこで。

 

 なぜに私は、崎山くんと向かい合って体育座りをしているんでしょう。

 

 崎山くんはニコニコしてる。

 

「あの……私になんの用?」

 

 おずおずと聞くと、崎山くんはポケットからスマホを取り出した。

 

「なんかさー、変な掲示板が送られてきたんだけど」

 

 その言葉に、一気に背筋が冷たくなる。

 

 崎山くんはスマホをいじりながら、プッとふき出した。

 

「誰のしわざかわからないけど、【Y川Sくら】って、フセ字のセンスないよね」

 

「……なにを言いたいの?」

 

「ごめんごめん。吉川さんってさ、強気っぽいのに意外と気にしいなんだね」

 

「……」

 

 情けないことに、言い返せなかった。

 

 以前の私ならきっと言い返していただろうけど、今は心が折れてしまっている。

 

 この人も敵なんだ……そう思うと、今すぐこの場から逃げ出したくなる。

 

「いや、バカにしてるんじゃないんだ」

 

「え?」

 

「傷ついてるんだなーと思って」

 

 大人っぽい顔で笑う彼の顔を、こわごわ見つめる。

 

 崎山くんは、敵ではないの?

 

「……傷つくよ、さすがに」

 

 ほっとしたからか、本音がポロリとこぼれた。

 

 すると崎山くんは、優しくほほ笑んだ。

 

「まぁ、気にするなって言っても無理だと思うけど、こういうのってすぐにみんな忘れるぐらいのものだから、見ないのが一番だよ」

 

「うん」

 

「こういうの書きこむヤツらはさ、ターゲットの反応を見て楽しんでるの。くやしいかもしれないけど、今はじっと耐えて、相手があきるのを待つしかないと思うよ」

 

「うん」

 

 ええっと、これはなんだろう。

 

 もしかして、崎山くんは私をはげましてくれてるの? どうして?

 

 疑問だらけだけど、初めてあらわれた味方に、泣きそうなほどうれしい。

 

「でもきっと、私も悪いんだよね。多分、私がフルートを買ったせいだと思う……」

 

 崎山くんは「それね……」とつぶやいてあぐらを組んだ。

 

「それ、俺は悪いと思わないんだよね。社会に出たらそういう人が出世するんだと思うよ」

 

「……ありがとう」

 

 願いを叶えたいなら、自分から行動して、つかみとらなくちゃ。

 

 指をくわえて待っているだけじゃ絶対に叶わないんだから。

 

「ただ、吉川さんがしたことで、傷つくかもしれない人には前もって言っておいた方がよかったとは思うけど」

 

「……うん」

 

 確かに、崎山くんの言う通りだ。

 

 私は、内藤さんの痛みを想像することができなかった。

 

「でも、まぁ、世の中にはいろんな人がいるってことなんだね、きっと。こうやって掲示板でしか自分の意見を言えない人とかさ、それに乗っかって面白おかしくさわぐ人とか。……でもさ、」

 

 そこで一度言葉を区切った崎山くんの顔が、少し真面目になる。

 

「自分がやったことって、必ず自分に返ってくるから」

 

 私は少しドキッとしてしまった。

 

 崎山くんの表情が、今まで見たことないくらい大人びていたから。

 

「いいことも、悪いことも……自分の行いは、めぐりめぐって自分に返ってくるもんだよ。悪いことばかり起こったり、なんか最近うまくいかない……みたいになるんだと思う」

 

「……そっか。怖いね」

 

「怖いよね。軽い気持ちでやってるんだろうけど、いつか必ず【しわよせ】が来るよ。形を変えてでも。だから吉川さんは、気にしないで笑ってなよ」

 

 うわ……。そんなこと言ってくれるなんて。

 

 崎山くんの言葉が胸に染みて、鼻の奥がツンとした。

 

 いつの間にか、いつものニコニコ顔に戻っていた崎山くんだけど、今までと違って見えるのは気のせいかな。

 

 ものすごく大人でかっこよく見えてしまう。

 

「あ、あの。ところで、崎山くんにその掲示板を送ってきた人って……」

 

 ドキドキをごまかすために、あわててそんなことを口走る。

 

「あー、えっとあの人。クラリネットで、吉川さんと同じクラスの……」

 

「内藤さん……?」

 

「そう! あー、内藤さんかー。いきなりメアド教えてって言われて教えたんだけど、名前わかんないから電話帳登録できなくて困ってたんだよね」

 

 のんきにそんなこと言ってるけど。内藤さんが崎山くんに送ったなんて……。

 

「内藤さんってさ、多分俺のこと好きだよねー」

 

「……ええっと。そ、そう?」

 

「でも俺、内藤さんに興味ないんだよね。俺さ……」

 

 えっ……? な、なに……?

 

 崎山くんが少しほおを赤らめてる。

 

 もしかして……。この流れって……告白!?

 

 ええええ~~~~~!? 部活内恋愛禁止なのに!?

 

 パニックになりかけていると、崎山くんと視線がぶつかって。

 

 崎山くんのくちびるが、ゆっくりと開いた。

 

 わーわーわー! 告白されちゃう!? どどどどどうしよう!!

 

「俺さ、女の子にあんま興味ないんだよね」

 

 …………。

 …………。

 

 はぁっ!?

 

 なにその突然のカミングアウト!!

 

 なにそれ……。なにそれ……。なにそれ……。

 

「俺、伊吹先輩ラブだから。あはっ」

 

 私は、さっこと加代ちゃんに負けないほどの「はにわ顔」で完全にフリーズした。

 

「毎日、伊吹先輩に好き好きビーム出してるんだけど、なかなか振り向いてもらえなくてさー」

 

 はぁ……。

 

「しかも部活内恋愛禁止とかありえないし。どうしたらいいと思う?」

 

 恋バナ!?

 ここにきて恋愛相談!?

 

「あー……バレないように秘密でがんばればいいんじゃないかなー」

 

 私も適当なこと言っちゃってるし。

 

「秘密かぁー。けっこう燃えるね」

 

「そ、そうだね……。私もこのことは秘密にしとくよ」

 

「ありがとう、吉川さん」

 

 しかも友情めばえちゃってるし。

 

 なんなの!?! さっきのドキドキを返していただきたい!

 

 ぐったりしたところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

 いつもは長くつらい昼休みが、今日は早く終わってしまった。

 

 音楽室に避難(ひなん)しないですんだし、崎山くんに感謝しなくちゃね。

 

 おかげで、だいぶ心が軽くなった。

 

「崎山くん、あの……ありがとう」

 

 立ち上がりながら頭を下げると。

 

「いや、むしろありがとう、吉川さん」

 

「え?」

 

「伊吹先輩がさー、フルートのやつなんかあったの?って、俺に聞いてくれたんだよねー! 初めて伊吹先輩に話しかけられて、感激でさ」

 

 そっか、それで崎山くんは私を呼び出したんだね。納得。

 

「じゃ、元気出してね。なんかあったら、俺でよかったらいつでも言ってよ」

 

「うん。ありがとう」

 

 ウインクを残して、崎山くんは去っていった。

 

 あぶなかった。もう少しで、私も青春劇場してしまうところだった。

 

 でも、伊吹先輩が、私のこと心配してくれたってこと?

 

 ……そんなわけないよね。

 

 きっと、毎日昼休みに来られるのが迷惑だから、理由を知りたかったんだろうな。

 

 もうかんちがいはこりごりだから、あまり深く考えないようにしよう。

 

 それでも……急いで教室に戻る私の足取りは軽かった。

 

イケメンで、大人っぽくて、
黒羽中の中で、伊吹先輩にも負けないほど人気な崎山くん。
崎山くんとの友情エピソードは、このあとも必見です!
第6回をお楽しみに♪
(第6回は11月10日午前10時公開予定!)

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