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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第4回 突然のトラブル


◆第4回
ゆううつで、やる気ゼロのさくら中学校生活だったけれど、部活を始めたおかげでワクワクでいっぱい!
……でも、なにか、大変なことが起こりそうな予感!?
ハラハラの第4回です!

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

♪突然のトラブル

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

「ね~、昨日トランペットパートでなにしたの? 伊吹先輩どうだった~?」

 

 翌朝、駅で会うなり加代ちゃんはさっこに詰めよっていた。

 

「ん~。昨日はパート内で自己紹介と、楽器のあつかい方を教えてもらったくらいかな~」

 

「自己紹介!? いいな~。 伊吹先輩の自己紹介聞きたかった~~~!」

 

伊吹です。で終了だったよ。でもかっこよかった!」

 

「え~~!? どんな感じで言ってたの!?」

 

「ん~と。めんどくさそうに、目も合わせず、笑顔もなく。伊吹です。って」

 

「ぎゃー! かっこいい!」

 

 かっこいいのか!? ものすごく感じ悪いよ!

 

 そのあとも、さっこは10回以上「伊吹です」をやらされていた。

 

 加代ちゃんが元気でよかった。

 

 内藤さんも、落ちこんでいなければいいな。

 

「じゃ、また放課後」

 

 学校までの道のりはお腹が痛くなるほど爆笑して、教室の前でふたりに手を振る。

 

「おはよー」

 

 いつも通りに教室に入る私を、今日はいくつもの目が見ていた。

 

 誰も、なにも言わないまま。

 

 ──なにか、おかしい。

 

 教室の異様な空気に、心がざわめく。

 

 なんだろう……? やけにみんなの視線が刺さる。

 

 体が緊張していくのを感じながら、自分の席に座った。

 

 内藤さんは、今まで話したことのないような、ハデなグループの子たちと笑い合ってる。

 

 まるで、私のことが見えていないみたい。どうしちゃったんだろう。

 

 ♪

 

 理由がわかったのは、その後すぐだった。

 

 朝のホームルームが終わって担任が教室を出ると、突然知らないアドレスから1通のメールが届いた。

 

 メールの本文には、URLがひとつはりつけられているだけ。

 

 開いてみたけど……なんだろう、コレ? 学校裏サイトみたいなやつかな……?

 

 画面をぼんやり眺めていた私は、ふと目に飛びこんできたページを見て凍りついた。

 

【黒羽中1年5組 Y川Sくら】

 

 ──え……?

 

 これ、私のこと……?

 

 瞬時に体が冷たくなった。心臓がドクドクと脈打ち始める。

 

『性格悪いよね』

 

 それが最初の投稿だった。

 

 そのあと、すでに30件近く書きこまれている。

 

『わかるかも』

『保健室多いよね』

『それ気になってた。どうせ仮病でしょ』

 

 全部、誰の書きこみかわからない。怖くなって、そこで見るのをやめた。

 

 誰がこんなことしてるの? どうしてこんなことになってるんだろう。

 

「クスクス」

 

 笑い声が聞こえて顔を上げると、内藤さんたちが、私を見て笑っていた。

 

 もしかして、これは内藤さんが作ったの? 昨日までクラスで一番仲よくしていたのに?

 

「……っ」

 

 教室内のみんなが、この掲示板に書きこんでいるように思えて、息が苦しくなる。

 

 クラスメイトの会話も、すべて私の悪口のように聞こえてくる。

 

 保健室に逃げこみたい。でも、またなにか書かれてしまいそうで行けない。

 

 私の居場所は、この机とイスだけ。教室の中に、味方は誰もいない。

 

 ♪

 

 昼休みになると、内藤さんは別の友だちとお弁当を食べ始めた。

 

「わ~~! 内藤さんのお弁当かわいい~~!」

「ありがとう。自分で作ってるんだ」

 

 はずんだ声が聞こえてくると、ひとりぼっちでいるのがつらくなってくる。

 

 そうだ! さっこか加代ちゃんといっしょに食べよう!

 

 お弁当を持って、さっこの教室をのぞくと……。

 

「いいな~さっこ。あの伊吹先輩と同じ楽器なんて、うらやましい!」

「うふふ~いいでしょ~。みんなも吹奏楽部に入部しない~?」

 

 さっこは、友だちと楽しそうにお弁当を食べていた。

 

 私は、逃げるように走り出した。

 

 さっこも加代ちゃんも、自分のクラスで友だちを作って、楽しい中学生活を送っているんだ。

 

 そこに私の入りこむスキマなんてない……。

 

 私の居場所はどこにもないんだ。

 

 涙をこらえて、私は1年生の教室がならぶその階から逃げ出した。

 

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

♪昼休みの音楽室

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

 必死に走って走って……気がついたら、音楽室の前に立っていた。

 

 お弁当を持ってきちゃったけど、食べる気になんてなれなかった。

 

 とりあえず昼休みが終わるまで、どこかで時間をつぶさなきゃ。

 

 ダメ元で音楽室のドアに手をかけてみると……。

 

「開いた……」

 

 思わず声がもれる。

 

 重たい防音ドアを通り抜けると、音楽準備室から優しい音色が響いてきた。

 

 誰かが、ひとりで練習してるみたい。

 

 立ちつくしたまま耳をかたむけていると、知っているメロディーが聞こえてきた。

 

『カンタベリー・コラール』だ……!」

 

 それは、私が大好きなヤン・ヴァン・デル・ローストの作品。

 

 メロディーが美しくて、受験勉強の合間に何度も聞いていた曲だった。

 

 なんの楽器だろう。

 

 こんなに優しくてきれいな音、聞いたことがない。

 

「誰が吹いてるんだろう」

 

 傷ついた心に染み入るような音色に包まれて、私はその場から動けなかった。

 

 音楽って、やっぱりすばらしい。

 

 恐怖で冷たくなっていた心が、じんわりとあたたかくなっていく。

 

 まぶたを閉じて、全身で聴いていると、涙がにじんできた。

 

 すると、突然その音色が止んで、ガチャリと準備室のドアが開く。

 

「!?」

 

 おどろいて目を開けたけれど、涙で視界がぼやけてよく見えない。

 

 わかるのは、その人が黒髪で、楽器を持っていて、男子の制服を着ているってことだけ。

 

 あわてて涙をぬぐって、パチパチと目をしばたたかせると。

 

 視界に、銀色のトランペットを持った、あの「伊吹先輩」があらわれた!!

 

「……なに?」

 

 不機嫌そうな伊吹先輩は、私が手に持ったお弁当に視線を移す。

 

 うわ! 違います!

 

 私は伊吹先輩のファンでもないし、いっしょにお弁当を食べたくて押しかけたわけでもありません!!

 

 かんちがいされたくなくて、あわててお弁当を背中にかくす。

 

「あ、あのっ。早く楽器になれたいな~と思いまして。私も練習してもいいでしょうか?」

 

「は?」

 

「ええと……。先輩のジャマにならないように、楽器庫でやりますんで……!」

 

 とっさに口走ったウソにしては上出来だと、自分をほめてあげたい。

 

 これで誤解されないはず。

 

 すると、伊吹先輩はふいっと視線をそらして口を開いた。

 

「別に……いいんじゃない?」

 

 表情を変えずにそう言い残し、また準備室に戻っていった。

 

「……はぁぁぁ~~」

 

 閉ざされたドアを見ながら、思いっきり息をはく。

 

 あー。びっくりした。

 

 ♪

 

「練習したい」と言ってしまった手前、しぶしぶ楽器庫に入った。

 

 練習する気なんてなかったんだけどな……。

 

 しかも、初心者の私は、練習といっても、まだ楽器を吹かせてもらえていない。

 

 マイフルートではなく、いつも使っているビンを手に取った。

 

 部活中は、ビンのふちを吹き続けている。

 

 ビンで音を鳴らすことが、フルートを吹くうえで大切な練習になるそうで。

 

 20秒吹き続けられたら、吹き口がついている『頭部管』だけ吹かせてもらえる。

 

 その後も色々な試練を乗り越えないと、「フルート」は吹かせてもらえないみたい。

 

 ビンを吹いてもなぁ~……。

 

 せっかく楽器を買ったのに。

 

 吹かせてもらえないなんて、テンション下がっちゃうよ。

 

 でも伊吹先輩にサボってるのがバレたらマズイ。

 

 仕方なく、ビンを吹く練習をすることにした。

 

 ボ──────。

 ボ──────────……。

 

 ……あきちゃった。

 

 でも、ビンを吹いていると無心になって、嫌なことを忘れられる。

 

 さっきは、伊吹先輩に私の涙の理由を聞かれなくてよかったな。

 

 ビンを置いて一息ついた私は、気になってまたサイトを開いてしまった。

 

『逃げたね』

『また保健室じゃね?』

 

 どんどんと書きこまれる言葉に、心が悲鳴をあげる。

 

 やっぱり見なければよかった。

 

 気持ちを切りかえたくて、となりの部屋から聞こえる『カンタベリー・コラール』に集中する。

 

 すごいな……。こんな優しい音を、トランペットで出せるなんて。

 

 しかも、あの伊吹先輩が吹いてるなんて、とても信じられない。

 

 見学の時に聞いた、攻撃的な演奏からは想像できないほど、やわらかい音だから。

 

 音色は傷ついた私の心にしみわたっていって、ポロリとなみだが出る。

 

 しばらくなみだを流していたら、スッキリしていつもの私に戻れた。

 

 先輩は、どうしてお昼休みに、たったひとりで練習しているんだろう。

 

 そんなにトランペットが好きなのかな? ナゾだ。

 

 そんなことを考えていると、不意に音が止んだ。

 

「うわっ……」

 

 ハッと我に返ってなみだをぬぐうと、すぐに楽器庫のドアが開いた。

 

 わわっ。伊吹先輩!!

 

 ぎゅっと緊張する。

 

 さっこや加代ちゃんならよろこびそうだけど、私はこの空気に耐えられないよ!

 

 

「ここ、カギ閉めるけど」

 ぶっきらぼうな言葉に顔を上げると、先輩は楽器を片づけ終わるところだった。

 

「すみません。今出ます」

 

 たいして練習していないビンをたなに戻し、あわてて楽器庫から出て頭を下げる。

 

「ありがとうございました」

 

 時計を見ると、もう昼休みが終わる時間だった。

 

 よかった。時間をつぶせた。

 

 でも、また教室に戻らなくちゃいけないと思うと、気が重い。

 

「失礼します」

 

 楽器庫の鍵をかけている先輩にそれだけ告げて、教室へ戻った。

 

とつぜんのトラブルに困ってしまったけれど、
心がほっとする、すてきな演奏を聞くことができたさくら。
でも、このあと、さくらの中学生活はどうなるの……?

次回は、『君とな』読者のみんなに大人気の「あの人」がいよいよ登場します!
第5回もお楽しみに♪
(第5回は11月9日午前10時公開予定!)

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