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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第3回 衝撃! 鉄のオキテ


◆第3回
やる気のない中学生活を送っていたさくらだったけれど、
吹奏楽部を見学して、「演奏したい」という気持ちがわきあがってきて……。
ドキドキの第3話です!

前回までを読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

衝撃! 鉄のオキテ

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

 吹奏楽部の見学と体験入部の期間は1週間。その終了を待たずに、私は入部届を出した。

 

 音楽がやりたい。

 

 今度こそ、フルートを吹きたい!

 

 そんな熱い気持ちがわき起こって、心にスイッチが入ったんだ。

 

 私の、突然の心変わりにおどろいたさっこと加代ちゃんも、入部届を提出した。

 

「部活に入れば、毎日伊吹先輩といっしょにいられるし~」

「だよね~。伊吹先輩に指導してもらいた~い! 手取り足取り!!」

 

「先輩っ! 私もう吹けませんっ!!」

「君ならできる! ほら、楽器を貸してごらん。こうやって吹くんだ! プー」

「きゃっ! 伊吹先輩っ! 間接キッス!!!!」

「間接じゃ、足りないな……」

「きゃ!」

「キャーー!!!!」

 

 ……ちょっとおふたりさん。キャーじゃないよ、まったく。

 

 突然、青春劇場を始めたふたりに、苦笑いしながら音楽室へ向かう。

 

 体験入部期間の今、1年生は自分がやりたい楽器を選んでいるところ。

 

 今日は、『パート練習』と呼ばれる、楽器ごとの練習場所を見てまわった。

 

 ♪

 

「今日も伊吹先輩かっこよかったなぁ」

「わかる! 私、絶対絶対トランペットパートになりたい!」

「私も!」

 

 帰りの電車の中で、ふたりはさっきから同じ会話をくりかえしている。

 

 さっきの青春劇場を実現するために、なんとしても伊吹先輩と同じ楽器になりたいらしい。

 

「トランペットは一番人気だからきびしいかもよ~」

 

 ニヤニヤしながら言った私に、加代ちゃんはドヤ顔でスマホの待ち受けを見せつけた。

 

「大丈夫! 黄色のこけしを待ち受けにして毎日おがんでるから! 絶対かなうはず」

 

「いいな~。私にもその画像ちょうだい!」

 

 盛り上がり始めたふたりに、周りの乗客がクスクス笑ってる。

 

「そんなに伊吹先輩がいいかなー」

 

「いい! あの整ったお顔とクールな感じが最高!」

 

「クールな伊吹先輩のかくれた笑顔をひとりじめしたい!」

 

 って、ふたりは意気ごんでいるけれど。

 

 部長の高田先輩のほうが、みんなに信頼されていて、ずっとすてきだと思うな。

 

 だって、3年生は後輩に指導したり、パートリーダーになる人が多いのに、伊吹先輩はそういう上級生っぽいことはしないで、ひたすらひとりで練習しているみたい。

 

 良く言えば自分にきびしい人。悪く言えば、自己中……って感じ。

 

 だから、新入生のほとんどが、伊吹先輩に夢中になっている理由がわからない。

 

「でもその待ち受けって、金運アップのおまじないじゃなかったっけ? 願いがかなうのはピンクのこけしだよ」

 

 冷静にツッコミを入れると、ふたりは「えっ!?」と、はにわ顔で固まった。

 

「そういうさくらは? フルートだってすごい人気じゃん。ダメだったらどうするの?」

 

「トランペットには来ないでよ~! ライバルが増えちゃうから」

 

 頼まれてもトランペットには行きませんから!

 

「ふふふ~。まぁ見ててよ。絶対フルートになるから」

 

 フルートは、トランペットの次に人気が高い。

 

 どのパートも、学校にある楽器は数に限りがある。希望の楽器になれないことだってある。

 

 楽器の数より希望人数が多い場合は、まずは即戦力になる経験者が選ばれるんだ。

 

 次に、未経験者がじゃんけんで戦う。

 

 小4の時、フルートが吹きたくて入ったスクールバンドで、私はじゃんけんで負けてサックスになってしまって……。

 

 最初は悲しかったけれど、サックスはかっこいいソロもあるし、結果的に楽しかった。

 

 でも、中学生になった今は、やっぱりフルートを吹きたい!

 

 だから、思い切って親に相談したら……。

 

 とっておきの作戦を教えてもらったの!

 

「じゃあ、また明日ね!」

 

 不思議そうな顔をしているふたりに手を振り、ウキウキしながら家に帰った。

 

 ♪

 

 数日後、部活見学と体験入部期間が終わって、私たちは正式に部員になった。

 

 毎日たくさん来ていた見学者は、ほとんど伊吹先輩見たさの冷やかしだったらしく、正式に入部した新入生は25人だけだった。

 

 その中には、同じクラスの内藤さんと、初日にとなりに座っていた男子もいた。

 

 さっこと加代ちゃんは、ひときわ目立つその男子をチラ見しながら小声でささやく。

 

「伊吹先輩に、部長に、あの人も! イケメンたくさん!!」

「やっぱ部活内恋愛したいよね~」

 

 音楽室に新入部員が集まって、先輩たちの説明を聞いていても、ふたりはイケメン探しに夢中だ。

 

 けれど、部活内恋愛にかけているふたりを、悲劇が襲った。

 

「……ということで、全国大会出場目指してがんばりましょう!」

 

「最後にひとつお伝えします。我が吹奏楽部には鉄のオキテがあります」

 

 鉄のオキテ?

 

 部長と副部長の言葉に、さっこと加代ちゃんが顔を見合わせる。

 

 ひと呼吸おいて、副部長が口を開いた。

 

「部活内恋愛は禁止です」

 

 ──え!?

 

 想定外の言葉に、さすがの私もおどろく。

 

 バッ! とふたりを振り返ると。

 

 思った通り、さっこと加代ちゃんは「はにわ顔」でフリーズしていた。

 

 ♪

 

「「部活内恋愛禁止ってありえない!!!!」」

 

 駅のホームで、ふたりの絶望的な声が響く。

 

「だって、部活内恋愛禁止ってことは、100%伊吹先輩とはつき合えないってことだよ?」

 

「ショックすぎる!!」

 

「入部しなければ部外者だから、望みはあったのに~~~」

 

「でも入部しなかったら、そもそも伊吹先輩とお近づきになれないよ」

 

「はぁ……そうだよねぇ」

 

 電車に乗りこみながら、ふたりは切なげにため息をついた。

 

 部活内恋愛禁止の理由は、つき合っているうちはいいけれど、別れた場合、どちらかが退部することがほとんどだから、ということらしい。

 

 コンクールに向けていっしょにがんばってきた仲間が、退部してしまうのは確かに切ない。

 

 やめてしまった人の穴を埋めるのは大変だろうし。

 

『純粋に音楽を!』と、顧問で指揮者の北田先生が決めたことらしい。

 

「もうこうなったら、なにがなんでも伊吹先輩と同じトランペットパートになるしかない!」

 

「うん! 私、絶対にじゃんけん勝ってやる! それで、先輩と秘密の恋をする!」

 

「恋愛禁止の部活内で秘密の恋って、すてきすぎる!」

 

 なんという打たれ強さなんだろう。

 

 伊吹先輩って感じ悪いし俺様っぽいけど、確かに顔はかっこいい。

 

 モテそうなふんいきがバシバシ伝わってくる。

 

 だから、もう彼女いるんじゃ……って思ったけど、夢見るふたりに現実を突きつけるのはかわいそうだから、言わないであげよう。

 

「はいはい、駅に着いたよ」

 

 はしゃぎだしたふたりの背中を押して、電車を降りた。

 

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

♪いよいよ楽器決定

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

 数日後、ついに楽器の決定日がやってきた。

 

 朝、改札前で待っていたふたりに、大事に抱えてきた秘密兵器を見せつけた!

 

「おはよ~! じゃ~ん!」

 

「うっそ! なにそれ!!」

 

「それって、もしかして……」

 

 目を丸くしてるふたりに、私はドヤ顔で言い放つ。

 

「フルート買っちゃった~~~!」

 

「「ええええええ~~~!?」」

 

 希望者が多いフルートは、確実にじゃんけんになる。

 

 じゃんけんに負けて違う楽器になるなんて、小学校の時の二の舞いは絶対にイヤだ!

 

 でもどうしていいかわからなくて、親に相談したんだ。

 

 そしたら、吹奏楽経験者のお母さんが「楽器を買っちゃえばいいのよ。フルートの経験がなくても、マイ楽器を持っていたら確実にフルート決定よ」って。

 

 泉中に落ちてから元気がなかった私に、夢中になれることができて、両親はよろこんでくれた。

 

「私の貯金だけじゃ足りなくて、お父さんとお母さんも協力してくれたんだ」

 

「すごいね~! さくらのパパとママ、最高だね!」

 

「やったね! フルート決定じゃん!」

 

 ふたりは笑顔で「おめでとう!」と祝福してくれた。

 

 経験者じゃないのに、先に楽器を買っちゃうのはずるいかなって、少し迷ったりもしたけど。

 

 でも、どうしてもやりたいから、買うことに決めたの。

 

 なにも悪いことはしていないんだし、先手必勝!

 

 ……そう思ってた。

 

 それがのちのち、とんでもないことになるなんて、この時は想像もしなかったんだ。

 

 ♪

 

「吉川さん、今日はいよいよ楽器が決まるね」

 

 教室に入ると、内藤さんがわくわくした声で話しかけてきた。

 

「うん。いよいよだね」

 

 うちのクラスの吹奏楽部員は、私と内藤さんだけ。

 

 内藤さんとは、体育に行く時とか、お弁当の時とか、いっしょに行動できる一番仲のいい友だちになれた。

 

「吉川さんはフルート希望だったよね?」

 

「うん。内藤さんはサックスだよね? お互い希望の楽器になれるといいね」

 

「それがね、サックスってリードを自腹で買うんだって。だから親に反対されちゃって」

 

「そうなんだ」

 

 リードっていうのは、クラリネットやサックスの吹き口につける、木の板のようなもの。

 

 そのリードを振動させて、音を出す。

 

 カップアイスのヘラをもっと薄くした感じで、少しでも割れるともう使えない。

 

 アルトサックスなら、1枚だいたい400円くらいする。

 

「だから私、第一希望はフルートにしたの! リード使わないし」

 

「そうなんだ! いっしょだね」

 

「うん!」

 

 わー。内藤さんといっしょにフルート吹けるといいなぁ。

 

「でもフルートは人気だもんね。楽器は2つしかないのに希望者が6人なんだって」

 

 知らなかった。思ったよりきびしい戦いになるってことだ。

 

 でも、すでに楽器を持っている私は、きっと不戦勝!

 

 フルート買っちゃおう作戦は大成功だったとほっとした。

 

「もしフルートがダメだったら、リードが一番小さくて安いクラリネットにしなさいって親に言われてるの。でもクラリネットよりフルートがいいなー」

 

「そうなんだね」

 

「経験者はいいよね。即決定だもん」

 

「うん」

 

 内藤さんに言ったほうがいいよね。私、フルート買っちゃったって。

 

 確実にフルートになれちゃうって。

 

 そう思って口を開きかけたその時……。

 

「経験者といえば、崎山くん! サックス経験者なんだって」

 

「崎山くん?」

 

「えーと……1年生で、イケメンで、髪の毛サラッサラの」

 

 あ! 見学の時に少し話した人か!

 

「崎山くん、サックスすごく上手いんだって! 小学校のスクールバンドでは、ちょっとした有名人だったらしいよ」

 

 あら……?

 

 内藤さんがいつになく乙女になってることに気がついた。

 

「吉川さん、部活見学初日に、崎山くんに話しかけられてたよね?」

 

「話しかけられたというか、吹奏楽の豆ちしきっぽいのを教えてもらっただけだよ」

 

「いいな~」

 

 そうか、だから内藤さんは、崎山くんと同じ、サックス希望だったんだ。

 

 ひとりで納得していた私に気がついたのか、内藤さんはあわてて手をブンブン振った。

 

「あ、違うの! ただのあこがれっていうか、ファンっていうか。 部活内恋愛禁止だもんね」

 

 わ~~。ここにも「鉄のオキテ」に恋をジャマされている乙女がいたとは……!

 

 ♪

 

 結局、私は内藤さんに楽器を買ったことを言えなかった。

 

 部活が始まり、各自第一希望のパートリーダーのもとへと集まる。

 

 フルートパートは、経験者の子がまず決定。

 

 そして、おずおずとマイ楽器を取り出した私も、無事フルートに決定した。

 

 フルートの募集人数はあと1枠。

 

 4人がじゃんけんをすることになった。

 

 内藤さん、勝てますように……。

 

 笑顔でガッツポーズを向けたけれど、彼女の顔はこわばっていた。

 

「先に決まったふたり、楽器庫に案内するから来て」

 

 先輩に呼ばれて、私は真新しいフルートを抱えながら、初めて楽器庫に足をふみ入れた。

 

 私の吹奏楽ライフの幕開けだ。

 

 これからの3年間は、きっとすばらしいものになる。

 

 そんなわくわくでいっぱいだった。

 

 ♪

 

 数時間後、部活が終わり、楽器庫の前でさっこと加代ちゃんと合流した。

 

 さっこは見事トランペットに決定!

 

 そして……、大変残念なことに……。

 

 黄色のこけしを待ち受けにしておがんでいた加代ちゃんは、撃沈……。

 

 打楽器全般を担当する『パーカッション』になった。

 

「パーカッションって、合奏する時はトランペットのすぐ後ろなんだって。私、伊吹先輩のすぐ後ろで愛を送るもん」

 って、加代ちゃんは泣きそうになっている。加代ちゃ~ん……かわいそうに。

 

 あわてて私は口を開いた。

 

「でも、きっと金運はアップしてるよ!」

 

「金運なんていらないもん! 伊吹先輩といっしょがよかったよ~!」

 

「でもでも、パーカッションにもイケメンの先輩がいたよね、さくら」

 

「う、うん。いたような気がする!」

 

「……!! ほんと?」

 

「ほんと! イケメンの先輩と練習できて、しかも伊吹先輩をつねに見ながら合奏なんて、サイコーだよ!?」

 

「それは……そうだね……。ふふっ。確かに!」

 

 よかった~。加代ちゃんがようやく笑ってくれた。

 

「よーし! これからいっしょにがんばろうね」

 

「うん」

「がんばる!」

 

 私とさっこは、加代ちゃんの肩を抱いて、3人で笑い合った。

 

 ♪

 

 結局、内藤さんはクラリネットになったみたい。

 

 希望の楽器になれなかったくやしさや、残念な気持ちはよくわかる。

 

 私も、小学生時代にフルートになれなかった時は悲しかったけれど、結果的にサックスは楽しかった。

 内藤さんも、クラリネットが楽しい!って、思えるようになったらいいな。

 

「さくら~帰るよ~」

「あ、うん」

 

 内藤さんに声をかけたかったけれど、真剣な顔で先輩と話していた。

 

 明日、クラスで話そう。

 

 そう思って、さっこと加代ちゃんを追いかけた。 

 

 

 その時、私はまったく気がつかなかったんだ。

 

 内藤さんの刺すような視線に……。

 

無事、希望どおり、フルートで吹奏楽部をスタートしたさくら。
楽しい中学生活がはじまります!
……でも、気になるのは、内藤さんの視線……。
このあと、いったいどうなっちゃうの!?
第4回をお楽しみに!
(第4回は11月8日午前10時公開予定!)

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