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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第2回 弱小!? 吹奏楽部


◆第2回
学校イチのイケメン・伊吹先輩とバッタリ会って、
吹奏楽部の部活見学をすることになってしまったさくら。
さくらが、音楽室で出会ったものとは……!?
大注目! の第2回です!!

****************

 

♪弱小!? 吹奏楽部

 

****************

 

 分厚くて重たいドアを抜けると、さらにドアが3つあった。

 

 それぞれ「音楽室」「楽器庫」「音楽準備室」と書いてある。

 

「部活見学初日なのに、すごい人だね。50人はいるんじゃない?」

「空いてるイスあるかなぁ……。あ! あそこ!」

 音楽室に入り、さっこが見つけてくれたイスに3人ならんで座った。

 

 広い室内は、指揮台を中心にして、半円を描くようにイスと譜面台が置かれている。

 

 そこへ、楽器を持った部員たちが次々とやってきて座り、軽く音を出していた。

 

 吹奏楽か……。泉中で、フルートを吹けるのを楽しみにしていたんだけどな。

 

 私は県大会に出ている泉中で、吹奏楽をやりたかった。

 

 きっと、ここは弱小吹奏楽部だよね……。県大会には、出ていなかったはずだから。

 

「わっ! 来たっ!」

 

 ぼんやりしていると、加代ちゃんのはずんだ声が飛びこんできた。

 

 まわりじゅうから、ざわめきと小さな悲鳴が聞こえてくる。

 

 何事かと思ってキョロキョロしていると、新入生の視線が一点に集中!

 

 そこには、銀色のトランペットを持った、さっきの『伊吹先輩』の姿があった。

 

「銀色、なんだ……」

 

 トランペットは金色のしか見たことがなかったから、ちょっとびっくり。

 

「伊吹先輩、トランペット持ってるとさらにかっこいいね」

「さすがトランペットの王子様!」

 

 うーん。確かにかっこいいとは思うけど、ちょっとコワイし、近よりがたい雰囲気。

 

 さっこと加代ちゃんの会話を聞き流していると、部長がやってきた。

 

「新1年生のみなさん、吹奏楽部にようこそ。今日は、合奏をお見せします」

 

 やわらかくほほ笑んで、部長は自分の席へと戻って楽器を構えた。

 

「部長の高田先輩もすてきだね。優しいメガネ男子~」

「わかる~! でもやっぱり私は伊吹先輩がいいな~」

 

 さっこと加代ちゃんは、テンション高めに小声でささやき合ってる。

 

 それにしても……。吹奏楽部の部員は、キラキラした人たちばっかりだ。

 

 みんな自分に似合うように制服をアレンジしてるし、髪形もオシャレ。

 

 でも、どんな演奏をするんだろう……。

 

 冷めた目で見ていると、顧問(こもん)で指揮者の音楽の先生が来た。

 

 いかにも音楽家というような雰囲気の、バッハみたいにまゆ毛がつり上がった先生だ。

 

 先生が指揮台に上がり、ギョロッと部員を見回す。

 

 指揮棒を構えた瞬間……。

 

 ザッという音と共に、部員がいっせいに楽器を構えた。

 

 指揮棒が大きく振られ、スッと息を吸う音が響くと、勇ましいマーチの演奏が始まった。

 

 ──うそ……この曲……!!

 

 私が好きな作曲家、ヤン・ヴァン・デル・ローストの『アルセナール』だ!

 

 この曲が大好きで、ずっと吹きたいと思っていたから、ぶわっと鳥肌が立つ。

 

 なによりも、この演奏、けっこう上手な気がする!

 

「この曲、かっこいいね」

 

 加代ちゃんのささやきに、ついうなずいてしまった。

 

 だって、『アルセナール』は、出だしがとにかくかっこいいの!

 

 シンバルの音に乗せて、トランペットの力強い音が鳴り響いている。

 

 すごい……。かっこいい!!!!!!

 

 いや、高らかにトランペットを吹いている伊吹先輩じゃなくて、この曲が!

 

 ──ハッ!!!!

 

 視線を感じて横を見ると、さっこと加代ちゃんがニヤニヤして私を見ていた。

 

「さくら、ノリノリじゃ~ん」

「目、キラキラしちゃってるし」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

 小声で茶化してくるふたりに完全否定したくせに、体が勝手にリズムをきざんでしまう。

 

 うわ! 静まれ自分!!!

 

 でもでも、トランペットのメロディーがかっこよすぎる!!

 

「伊吹先輩、すごく上手かったでしょ?」

 

 はっ!!

 

 さっこに耳打ちされて、うろたえる。

 

「そ、そうかなー。飛び抜けてその先輩が上手いって思わなかったな。トランペットみんなが上手って感じ」

 

「だからだよ」

 

「え?」

 

 突然となりからかかった言葉に、おどろいて横を向くと。

 

 サラサラのきれいな髪の男子が、フッと笑った。

 

「吹奏楽は団体競技だからね。ソロ以外でひとりだけ目立つ演奏をするような人は、上手くなんかないよ」

 

「そうか……」

 

 言われてみれば確かにそうだ。

 

 この人、吹奏楽にくわしそうだけど、経験者なのかな?

 

 その後、3曲を演奏して部活見学は終わった。

 

 1曲だけ、伊吹先輩のトランペットソロがあったんだけど。

 

 ぶっきらぼうな伊吹先輩らしい、高い音が攻撃的な演奏だった。

 

ハイトーンやばいね」

 

 伊吹先輩のソロが終わると、さっきの男子がニヤリと笑いながらつぶやいた。

 

 それにさっこと加代ちゃんが食いつく。

 

「ハイトーンってなに?」

 

「高音だよ。伊吹先輩の得意技みたいだね」

 

「「へぇぇぇぇ~~~。すごぉぉぉい」」

 

 こらこら。

 

 もはやふたりは伊吹先輩のソロよりも、この男子に夢中。

 

 そんなふたりを引きずって、音楽室を出る。

 

「よし、帰ろう」

「うん」

「もうイケメンでお腹いっぱ~い」

 

 あいかわらずミーハーだなぁ。

 

 でも、小学校の時から変わらない、さっこと加代ちゃんが大好きだ。

 

 学校を出て、駅へと歩き出した私の足取りは、自分でもおどろくほど軽くて。

 

 気がつけば、頭の中ではさっきのマーチ『アルセナール』が鳴り響いていた──。

 

 

****************

 

♪ふみ出す勇気

 

****************

 

 翌朝になっても、さっこと加代ちゃんは「伊吹先輩やばかったね~」とはしゃいでいる。

 

 ふたりの一番は、やっぱり伊吹先輩なんだね~。

 

 なまあたたかいまなざしを向けつつも、私の心もどこかあたたかい。

 

「吹奏楽部に入部したら、毎日伊吹先輩に会えるんだよね~」

「毎日特等席でお姿をおがめるってことだ!」

「たまらんね。部活内恋愛最高!」

「たまりませんな! もう入部するしかないでしょ」

 

 確かに、かっこよかったな……なんて、ふと思った自分におどろく。

 

 でもそれは一瞬で、ふたりのミーハートークを聞き流していたら、学校に到着した。

 

 はぁ……。今日もまた、ゆううつな学校生活が始まる。

 

 ♪

 

「おはよう! 吉川さん、吹奏楽部に入部するの?」

 

 教室に入って自分の席に座ったとたん、内藤さんが話しかけてきた。

 

「あ、いや……おはよう」

 

 笑顔を向けられて、「入部する気はないんだけど」と言えなくなってしまう。

 

「昨日吹奏楽部の見学に行ったら、吉川さんもいたからびっくりしちゃった! 吉川さん、友だちといっしょだったから声かけそびれちゃったの」

 

 そういうことか。昨日の部活見学に内藤さんもいたんだね。

 

「そうなんだ……あはは」

 

「私、昨日のうちに入部届を出してきちゃったんだ。黒羽中って、今年は全国大会目指して、ものすごく気合い入ってるんだって! なんたって伊吹先輩がいるしね!」

 

「え!? 全国大会!?」

 

 目標デカすぎじゃない!? まずは地区予選突破でしょ!?

 

 あの泉中でさえ県大会出場止まりなのに、明らかに無謀(むぼう)すぎるよ。

 

「おととし初めて地区予選を突破してから、2年連続で県大会に出場してるんだって!」

 

「えっ!? ここの吹奏楽部、県大会に行ったの!?」

 

「うん! 2年前は銅賞、去年は銀賞。今年は天才トランペッターの伊吹先輩がいよいよ引退しちゃうから、『先輩のトランペットを武器に、今年こそ県大会と関東大会で金賞を取って、全国大会に行こう!』って、今までにないほど盛り上がってるんだって!」

 

「そ、そうなんだね……」

 

 ここの吹奏楽部が、そんなにすごいなんて! びっくり!!

 

 小4でスクールバンドをやっていたころは、強い中学はチェックしていたんだけどな。

 

 でも小4の終わりに県外へ転校して、楽器をやめちゃったんだ。

 

 そのあと、小6の秋に同じ小学校に戻ってきたんだけど、受験勉強に集中してたから、コンクールの最新情報を見落としていたみたい。

 

 予鈴がなると、内藤さんは「じゃあ」とニコニコしながら自分の席へと戻っていった。

 

 そのあとの授業は、いつも以上に身が入らなかった。

 

 私はいつまで無気力でいるんだろう。

 

 心の奥ではいつも、この現状から一歩ふみ出したいって思っていた。

 

 本当はわかってるんだ。

 

 始まったばかりの中学校生活をいじけて過ごしても、後悔するだけだって。

 

 帰りのホームルームで、担任の鈴木先生をぼんやり見ていると、きのうの言葉を思い出した。

 

 ──部活に打ちこむのもいいかもよ。

 

 部活か……。

 

 打ちこむ価値がないって勝手に思いこんでいたけど、そんなことないのかもしれない。

 

 やっぱり、フルートが吹きたいな……。

 

 ホームルームが終わり、ガヤガヤとさわがしくなり始めた教室を抜け出す。

 

 頭の中では、昨日の見学で聞いた『アルセナール』が勇ましく鳴り響いていた。

 

 はなやかなコンサートマーチに、ぐいぐいと背中を押される。

 

 バスドラムの重低音が、心臓をゆさぶるように響く。

 

 さらに、難しい高音をバンバン吹く、伊吹先輩のトランペットソロも……。

 

 確実に、私の心はおどっていた。

 

 頭の中で『アルセナール』をかなでながら、私はさっこと加代ちゃんに歩みよる。

 

「ねぇ、これから吹奏楽部の見学行かない?」

 

 胸が高鳴るのを感じながら、私は笑顔で言った。

 

入学してから、ずっとやる気のなかったさくらの中学生活に、
「吹奏楽部」「伊吹先輩」という、あたらしい「すてきなこと」がやってきました!
いったい、さくらは、吹奏楽部に入るの? 入らないの?

第3回をおたのしみに!(第3回は11月7日午前10時公開予定!)

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  • 【定価】 704円(本体640円+税)
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  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319456

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