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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第1回 序奏


◆第1回
つばさ文庫で大人気の恋愛部活ストーリー『君のとなりで。』の1巻~3巻のスペシャルれんさいがスタート!!
恋のお話、部活のお話、音楽が好きなみんな、ぜひ読んでいってね!
もう読んでいるひとは、もう一度読んでみたり、お友だちに『ここ読んで!』って布教したりして、みんなで楽しんじゃおう♪

2022年2月28日までの期間限定公開です。

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♪序奏

 

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 その日、私は期待に胸をふくらませて校門をくぐった。

 

 緊張はしてるけど、不安よりもわくわくする。

 

 だって、かわいいセーラー服。きれいで立派な校舎。修学旅行は海外!

 

 そしてなんといっても……。

 

 毎年コンクールの地区予選を突破して、県大会に出場している吹奏楽部!

 

 あこがれのこの学校で、吹奏楽部に入部して、フルートを吹きたい。

 

 その夢が、きっともうすぐ叶うんだ。楽しみだな。

 

 4月になったら私は、ここ泉中学校の生徒になっているはず。

 

 だ っ た の に 。

 

 合格者番号がはり出された掲示板の前で、私は立ちつくしていた。

 

「ウソ……」

 

 ウソだよね? まさか、私の受験番号がないだなんて!

 

 合格発表の掲示板前には、たくさんの受験生が集まっている。

 

 あちこちから「あった!」という声が響いていて。

 

 落ちた人なんて誰もいないんじゃないかと思うくらい、明るい雰囲気にあふれていた。

 

 その中でただひとり、受験番号を持ったまま『はにわ』みたいな顔で固まっている私……。

 

 吉川さくら。12歳。

 

 桜が満開になる前に、一足先に散ってしまった……。

 

 どうしよう。

 

 もう、目の前が真っ暗……。

 


****************

 

♪ゆううつな学校生活

 

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 最後の授業が終わり、教室内がいっせいにざわめく。

 

 みんなは楽しそうだけど、私には、すべてのものがにごって見えるんだ。

 

 はぁ~……。もう帰ろう。

 

 今日何十回目かわからないため息をつき、カバンを持って立ち上がった。

 

「吉川さん、帰るの?」

 

「え? あ、うん」

 

 えーと……。

 

 話しかけてくれた子の名前が思い出せなくて、あせっちゃう。

 

 自主性を重んじる、ちょっと変わった校風のこの学校では、制服にネームプレートがない。

 

 自分からどんどん名前を聞いて、コミュニケーション能力を身につけよう!とかなんとか。

 

「具合大丈夫? 今日も保健室に行ってたよね」

 

「う、うん。大丈夫だよ。ありがとう」

 

 入学してまだ1週間だけど、学校も授業もつまらなくて、私は保健室通いをしていた。

 

 実は、ほぼ仮病なんだけど……。心配させちゃったみたい。

 

「そっか~。無理しないでね。また明日」

 

「うん、ありがとう」

 

 その子が持っている教科書から、名前をチラッと見る。

 

「内藤さん、また明日ね。バイバイ」

 

「うん、バイバイ吉川さん」

 

 帰っていく内藤さんの背中を見送って、またため息をついた。

 

 ──あの日。

 泉中学校に落ちた瞬間、私の人生もう終わったと思った。

 

 そんな時、『黒羽中学校』が定員割れで二次募集をしてるって言われて。

 

 もうどこでもいいやって投げやりになって、ダメ元で受けてみたら、合格。

 

 ここ、黒羽中の生徒になれたんだけど……。

 

 教室を出るまぎわに、ちらりとクラスメイトたちを眺めた。

 

 男子も女子もオシャレな子が多い。みんなキラキラしていて、すごく楽しそう。

 

 それって、みんなは自分でこの学校を選んだからだよね。

 

 でも私は違う。ここに通いたかったわけじゃない。 

 

 校風も合わないし、居場所もなくて、毎日が無気力なんだ。

 

 でも、全部自分のせいだってわかってる。

 

 私が、受験に失敗したからなんだ。

 

「吉川~」

 

 ろうかを歩き始めるとすぐに呼び止められた。

 

 振り返ると、担任の鈴木先生が立っていた。

 

「吉川~元気か~?」

 

「あ、はい」

 

「なんか悩みがあったら言えよ~」

 

 そのひとことで、なんとなく察した。

 

 鈴木先生には、私の胸の内なんて、お見通しなのかもしれないって。

 

 いつもボーッとしていて先生っぽくないけれど、意外とよく見てるのかな。

 

「は~い。ありがとうございます」

 

 いちおう、笑顔でそう答えておく。

 

「部活に打ちこむのもいいかもよ」

 

 返事に困って苦笑いをする私に、鈴木先生はそれだけ言い残して行ってしまった。

 


****************

 

♪部活見学とうわさの王子様

 

****************

 

 この学校に受かってゆいいつよかったと思えることは、小学校でも仲よしだった須田(すだ)さえこ、通称『さっこ』と寺西加代(てらにしかよ)こと『加代ちゃん』もいっしょってこと。

 

 3人ともクラスは離れちゃったけど、ずっといっしょに登下校してる。

 

 ふたつとなりのさっこのクラスをのぞくと、すでに加代ちゃんが来ていた。

 

 私を見つけてろうかに出てきたふたりは、いつになくテンションが高い。

 

「ねぇ、さくら。聞いて! 私、中学デビューする!」

「私も! 絶対、いい恋するんだ!」

 

「なにそれ。突然どうしたの?」

 

「中学校生活は恋に生きるって決めたの!」

「で、私たちこれから吹奏楽部の見学に行くんだけど、いっしょに行かない!?」

 

「え? 吹奏楽部?」

 

 この学校にも吹奏楽部があったんだ! でも、ふたりとも、どうして吹奏楽部?

 

「今日から部活見学できるんだって~」

「もう見に行くしかないでしょ!」

「「伊吹先輩~~!」」

 

 知らない名前だけど、誰だろう?

 

「伊吹先輩って?」

 

 キョトンとした私に、ふたりは信じられない!という顔を向けた。

 

「黒羽中っていったら伊吹先輩でしょ~!」

「吹奏楽部の部活紹介で、伊吹先輩コールすごかったじゃん!」

 

「部活紹介? いつ?」

 

「今朝の全校集会で! 寝てたの?」

 

「あ、保健室行ってた」

 

 私の言葉に、ふたりは「うそ~~~」って、コントみたいにくずれ落ちた。

 

「さくら、もったいないことしたね~。伊吹先輩かっこよかったのに!」

 

「だからその伊吹先輩ってなに?」

 

「伊吹先輩はね、吹奏楽部で、3年生のイケメン天才トランペッターなの!」

「すっごくすてきなんだから! さくらも見に行こうよ~」

 

「……うーん」

 

 ふたりには申しわけないけど、ぜんぜん心が動かない。

 

 だって、泉中以外で吹奏楽をやるなんて、考えていなかったから……。

 

 そうこうしているうちに、ふと気がついた。

 

 ふたりといっしょに歩いていたら……いつの間にか、ここ音楽室のある階なんだけど!

 

 やられた……! ふたりの天然パワーにまんまとやられた!

 

 私は帰るねって言おうにも、伊吹先輩とやらをほめたたえるふたりの会話に入れない。

 

「や~、伊吹先輩かっこよすぎ! 今日のトランペットソロやばかったよね!」

「ほんと! マジ神なんですけど! 私のためだけに吹いてほしい!」

 

 そんなに!? 吹奏楽好きとしては、ちょっと気になっちゃう。

 

「その伊吹先輩って、そんなに上手いの?」

 

「顔ばっかり見てたからよくわかんないけど、多分すごく上手いよ!」

「しかも! 顔だけじゃなくて、伊吹先輩って循環(じゅんかん)呼吸ができるんだって!」

 

「循環呼吸? なにそれ」

 

「ググってみてびっくり! 息つぎなしでずっと吹き続けられる奏法なんだって!」

 

「えぇぇ!? なにその技!」

 

 おどろいた私に、加代ちゃんがつけ足す。

 

「鼻で息を吸いながら同時に吹くの! 伊吹先輩すごくない!?」

 

「ふふっ。それ、変人の域に達しちゃってるよ」

 

 確かにすごいけど、お笑い番組のネタみたい! 

 

 思わず吹き出すと、さっこが「ちゃんとした奏法なのに~」と口をとがらせる。

 

 だって、お笑い番組……って言おうとしたその時。

 

「変人で悪かったな」

 

 え!?

 

 とつぜん、背後から響いたその声に、私たちは瞬時に固まった。

 

 3人そろって、おそるおそる振り返ると……。

 

「ひぃぃ~~!!」

「キャーー!!!!」

 

 さっこと加代ちゃんは、さすがのリアクションで、ザザッとろうかの壁まで後ずさりした。

 

「いいいいい伊吹先輩!!!!!」

「ああああああああ……」

 

 加代ちゃんにいたっては、もう言葉になってない。

 

 ふたりがおどろいた顔で見つめる視線の先には、カバンを肩にかついで、だるそうに歩いてくる男子生徒がひとり。

 

 ツヤツヤの黒髪。きりっとした切れ長の目。クールなのか不機嫌なのか、無表情。

 

 この人が、天才トランペッター(らしい)伊吹先輩?

 

 うーん……。感じ悪っ!!!!

 

 それはそうと、私の素直な感想を本人に聞かれてしまった。

 

 さすがに「変人」はマズかったかな。相手は3年生だし、ちょっと気まずい。

 

「えーと……」

 

 作り笑いを浮かべる私の横を、その人はあっと言う間に通り過ぎて、音楽室のドアに手をかけた。

 

 そのまま、ぴたっと足を止める。

 

 そして、ハラハラしながら見ている私たちのほうを、振り向いた。

 

「見学すんの? しないの?」

 

 ぶっきらぼうな言葉に少しだけまゆをひそめた私をよそに、さっこと加代ちゃんは金縛りがとけたように全力でうなずいた。

 

「「見学します!!!!」」

 

「ふーん」

 

 その人はさほど興味がなさそうに小さくつぶやき、音楽室のドアを開けて、

 

「高田ー。見学だって」

 

 中にいるらしい誰かにそう告げた。

 

 同時に、音楽室の中から黄色い声が飛んでくる。

「キャー」とか「伊吹せんぱーい」とか。

 

 中はどんなことになってるんだろう。

 

 入れかわりに、優しそうなメガネ男子が出てきた。

 

「こんにちは。部長の高田です。見学だね? 来てくれてありがとう」

 

 そのほほ笑みに、さっこと加代ちゃんはポッとほおを赤らめた。

 

 部長を見つめるふたりの視線が、すごく熱っぽい。

 

 おーい。まぁ、中学デビュー宣言してたもんね。

 

「じゃあ、このノートにクラスと名前を書いてくれる?」

「「は、はい!」」

 

 ふたりはいそいそとノートにペンを走らせた。

 

「3人だね。じゃあ中に入って、空いてるイスに座って待っててね。もうすぐ始めるから」

 

「えっ!? 3人!?」

 

 今、帰ろうとしてたのに!

 

 あわててノートをのぞき見たら、さっこが、ちゃっかり私の名前も書いていた。

 

「ちょっと……」

 

「あの、私たち、さっき伊吹先輩を怒らせてしまったかもしれないんです……」

 

 私の抗議の声をかき消すように、さっこが部長を見上げる。

 

「ああ、いつもあんな感じだから大丈夫。気にしないで。むしろ、ぶあいそうでごめんね。さ、もうすぐ始めるから入って」

 

 わわっ! 今さら、私だけいいですとは言い出せなくて。

 

 さっこと加代ちゃんに引っ張られ、仕方なく音楽室に入るはめになってしまった。

 

 

ついに、黒羽中学校で一番のイケメン・伊吹先輩が登場!!
ちょっと気まずい出会い方をしてしまったけど、このあといったいどうなるの!?
第2回につづきます♪(11月6日 午前10時 公開予定)

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