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『はなバト!』1巻無料公開! 第15回


 

絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!

わたし、白沢みくに!
きれいなお花が大好きで、『花言葉』にくわしい中1だよ。

ある日の放課後、見たことのないバケモノ(!?)がおそってきて
……って、いったいうちの学校で何が起きてるの!?
助けてくれたのは、どこかミステリアスな、華道部の竜ヶ水先輩。

「みんなを守れるのは、『花』を味方にできるきみだけだ」

なんて、そんなのムリです!!!
だけど、友だちにまで危険がせまってきて!?
こうなったら、 『花言葉』がもつ力で、わたしがピンチを救ってみせる....!

 

◆◆◆

 本校舎南棟、三階の東はしの部屋──桜乃星学園中等部の、生徒会室。
 わたしはゴクリとつばを飲みこんでから、こんこんと扉をノックした。
「どうぞ」
 中から返ってきた声をきいてから、引き戸を開ける。
「失礼します」
 初めて入る生徒会室は、すごく広かった。
 会議室みたいに長机がロの字に並べてあって、一番奥の正面の席に、ほむら先輩は座っていた。
 背後の大きな窓からさしこむ朝日に照らされて、逆光の中、先輩は書類から顔を上げた。
「……みくにちゃん、おはよう」
「ほむら先輩。わたしが何をしに来たか、分かりますか」
「分からない……と、答えておこうかな」
 ほむら先輩はにっこりと笑うと、長い足を組みなおした。
「話があるなら、どうぞ。座って」
 手でうながされるまま、わたしは近くのパイプイスに腰かける。
 すごく、静か。
 まるで世界が、この生徒会室だけになってしまったみたいに。
「先輩は、『生徒がどんどん別人に変わってる』ってウワサ、知ってますか?」
「まあ、話くらいは」
 机に軽くほおづえをついて、ほむら先輩はにこにこしたままうなずく。
「わたしは、キツネをふつうのオニだと思ってました。オニだから、食料として、くもったココロを食べてるだけなんだって」
「………………」
「けど、違った。キツネの目的は、たくさんのくもったココロを食べて、強くなることじゃなかった。ココロをうばい、みんな同じような人間にすること。問題児を減らし、サク中をいい学校にすること。それ自体がキツネの目的なんじゃないかって考えたら、思い出したんです」
 ひざの上で、ぎゅっと両手をにぎる。
「ほむら先輩が生徒会長になってから、すごく優等生が増えた、って話を」
「ふふ、光栄だね」
 仮面のようなカンペキな笑顔をはりつけたまま、先輩は再び、ゆったりした動作で足を組みなおした。
「でもごめんね、みくにちゃん。たくさん話してもらって申しわけないけど、ボクにはきみが何をいってるか、サッパリ分からないよ」
 認めないつもりなんだ。
 自分がキツネだって認めなければ、わたしが引くと思ってる。
「……先輩は、わたしが仮入部として初めて部室に行ったとき、いいましたよね」
 ──「ああ、みくにちゃん! 今日は来てくれると思ってたよ」
「まるで、わたしが来ることが分かっていたみたいないいかたでした」
「……それは……」
「先輩は、知っていたんじゃないですか? ファンクラブの会長さんがあの日、わたしの仮入部に許可を出すことを。ココロを食べて、そうなるように仕向けたから」
 思い返してみると──。
 わたしが『加治木ほむらファンクラブ』のせいで部活に行けないって話したとき、先輩は一瞬、冷たい顔をした。
 きっとあのとき、ほむら先輩は、次のターゲットを決めたんだ。
 先輩はたぶん、くもったココロの人を適当に襲っていたんじゃなくて、『よくないことをした人』を襲っていた。
 だから、夜の学校で隠れて配信していた、ヒナちゃんも襲われちゃったんだ──。
「……うーん。ボクには、みくにちゃんが何をいいたいのか分からないよ。部活での会話のことも、さすがに、何をいったかまで覚えてないし」
 追いつめたかと思ったけど、先輩はどこ吹く風だった。
 つかみどころのない笑顔で、かわされちゃう。
(……それなら!)
「それに……わたしがキツネを追いかけたとき、先輩にぶつかりましたよね!? キツネが消えた先に伊織を見つけたと思ったけど、それより前に、先輩に会ってました!」
「ああ、あのとき。でも、たまたまそこにいた……としか、いえないけどな」
「う……」
 ダメだ、何をいっても意味がなさそう。
 やっぱり、伊織についてきてもらえばよかったかな──と弱気になりかけて、ブンブンと首を横にふる。
 こうなったら、もう、これしかない。
 ガタッと、勢いよく立ちあがる。
「覚悟してください!」
 用意してきた、二枚目の『お守り』──あぶらあげを、投げつける!
「えっ」
 ほむら先輩は、一瞬だけ驚いた顔をしたけど。
 わたしが投げたあぶらあげを、指でつまむように難なくキャッチした。
「……何をするのかと思ったら」
「………………」
「みくにちゃん。キミは何度もあぶらあげを投げてくるけど、一体なんのつもりなの? 食べ物は、粗末にしちゃダメだよ?」
 ほほ笑みながら、あぶらあげを机に置くほむら先輩。
 絶対的な自信を感じさせるその顔に、ピシッと人差し指を向ける。
「認めましたね」
 わたしの言葉に、ほむら先輩はぴくりと眉を動かした。
「…………何を?」
「認めましたね。わたしから、何度もあぶらあげを投げつけられたと」
 わたしがあぶらあげを投げた相手は、伊織以外に、キツネしかいない!
「………………」
「たったいまの言葉です。忘れたとはいわせません」
 しばらく、静寂がただよった。
 そして──ずっと笑顔だったほむら先輩が、スッと真顔になった。
「くだらないな」
 ゆっくりと立ちあがった先輩は、カツ、カツ、とわたしのほうに歩いてくる。
「あのね、みくにちゃん。ボクはそもそも、キミに正体がバレようがバレまいがかまわない」
「み……認めるんですね? 自分が、ココロを食べていたキツネのオニだって」
「認めてほしいなら認めるよ。でもそんなの、どっちだっていい」
 ほむら先輩はわたしの前に立つと、フッと氷のような笑みを浮かべた。
「だってもう、龍神は消えた。司くんには悪いけど、この学校でボクがやりたかったことは、もうほとんど終わったといっていい」
「…………!」
 思わず、息をのんだ。
「ほむら先輩は……竜ヶ水先輩のこと、覚えてるんですか……?」
「まあ、ボクは人間じゃないからね」
 ほむら先輩が、こともなげにいう。
 ──「何かがあって、消えるようなことになったら……たぶんぼくの存在は、人間たちの記憶からも消えてしまうだろうね……」
 そういえば竜ヶ水先輩は、そんないいかたをしていた気がする。
「それより、みくにちゃんが司くんを覚えていることにビックリなんだけど? やっぱり、神と巫女の絆みたいなもの? おもしろいね」
「お……おもしろくないです! 竜ヶ水先輩は、ほむら先輩からみんなのココロをとり返そうとして、あんなことになったのに! きっとほむら先輩のこと、信じてたのに……!」
 ほむら先輩にほめられて嬉しそうにしていた竜ヶ水先輩の顔を思い出すと、涙がこぼれそうになる。
「司くんの正体が龍神だってことは、割と前に気づいていたんだけどね」
 ほむら先輩はそういって、肩をすくめた。
「同じ部活にいることすら気づかないなんて、笑っちゃうよね。ご神体も持たない、なんの力もない存在で、ボクのジャマなんてできっこないのに。まあ、どうせ何もできないだろうからほうっておいたんだけど……キミが現れてからは、ちょっと面倒くさいことになりそうだったから。消えてくれて助かったよ。実際、龍の姿をとり戻されたときは危なかったしね」
「……そんな」
 ひどい。ひどすぎる。
 消えてしまった先輩に対して、そんないいかた──。
「ああ、そうだ……ひとつ謝っておかないと」
 そういうとほむら先輩は、包帯が巻かれたわたしの手を、ギュッとにぎってきた。
「このあいだはごめんね。あのときボクは、キミを少しおどかすつもりで……あの炎を見せれば、さすがに引くだろうと思ったんだ。ボクのことを調べるのを、やめるだろうって。逃げずに立ち向かってこようとするとは思わなくて、ケガをさせてしまった」
 にぎられた手をふりはらって、わたしは先輩から距離をとる。
「そんなことより、みんなからココロを奪ったことは、悪いと思わないんですか!?」
「思わないよ」
 即答だった。迷いがないのが伝わってくる。
「だってボクは、人間たちと同じことをしてあげただけだから」
「人間と……同じ?」
 意味が分からず、ポカンとなる。
「キミたち人間だって、みんな同じ、正しいふるまいをすることを求めるよね。ちょっとでも失敗すると、みんなよってたかって失敗した人を責めるじゃないか」
 そういわれてすぐ、ヒナヒナチャンネルに書きこまれたコメントが頭に浮かんだ。
 ──【こんなことしていいと思ってるの?】【人に迷惑かけんな】【教育失敗】……。
「そもそもボクはね、人間に、ココロなんて……自分らしさなんて、いらないと思ってるんだ」
「な……なんで、ですか」
「分からない? ココロなんかがあるから、違う人間になる。違う人間になるから、争いが生まれる。ボクは、手始めにこの学校で、誰も傷つかない世界を作ってあげただけなのに
 わたしは、いい返す言葉を見つけられなかった。
 ──誰も、傷つかない世界。
 みんな同じ考えで、みんな同じ価値観で、みんな同じ行動をするなら──確かにきっと、争いなんか起きない。
 攻撃的なコメントに傷つくこともない。
『似合わない』なんて言葉で傷つくことも、ない。
「……ねえ、みくにちゃん」
 だまりこんだわたしに、ほむら先輩はにっこりと笑う。
「キミたちが望んでいるのは、こういう世界じゃないの? ボクはボクなりに、いい生徒会長らしく……いい人間らしく、がんばってきたつもりだよ。実際みんな、ボクをいい人間だと思ってくれたよね? 学校もよくなったよね? ココロのない、正しいふるまいをする人間だけの世界になって、何か問題がある?
 ずいっとつめよられて、わたしは動けなかった。
「それは──」
 ごくりと、勝手にのどが鳴る。
 ほむら先輩のカンペキに整った美しい顔は、間近で見ると恐怖すら感じる。
「──それは、確かに先輩が正しいかも……しれません」
 わたしの返事に、ほむら先輩はちょっと面食らったように身を引いた。
「だってわたしも、ウワサ話を初めてきいたとき、別にほっといてもいいんじゃないかなって……思いました。いい人になるなら、悪いことじゃないじゃん、って」
「………………」
「先輩のいうとおりです。たぶんみんな同じ『いい人』になれば、誰も傷つきません。でも、だからって……ココロがない人間だけの世界がいいとは、思えないんです」
 たくさんの人のココロが、うばわれてしまった学校──みんな同じ、みんな正しい学校は、息苦しくて、楽しくなかった。
 決して、ルールを守らなくていいわけじゃないけど──。
「わたしは頭がよくないから、どうすればいいかなんて分かりません。でも……みんながそれぞれのココロを大事にしながら『誰も傷つかない世界』にしていくことって、できないんでしょうか?
「……きれいごとだね」
「きれいごとだとしても、わたしはそっちのほうがいいと思うから」
 しんと、空気がしずまり返った。
「つまりキミは」
 先輩の瞳が、ろうそくの火のように、赤くゆらめく。
「ボクが、まちがっているといいたいわけだ」
「ほむら先輩! わたしは先輩の考えじゃなくて、やりかたがよくないんじゃないかって──」
「もういい。話は終わりにしよう」
 ほむら先輩の体が、突然、ぼわっとまっ赤な炎に包まれる。
「ボクを否定したことを、後悔するといいよ」
 あまりの熱さにあとずさる。
 炎が静かに消えたあと──そこには、美しい金色のキツネが立っていた。
(けっきょく、こうなっちゃうんだ……)
 なんとか、言葉で分かってほしかった。
 でも、先輩がそう来るなら。
(わたしも全力で、応えてみせる!)
 髪からかんざしを引きぬく。
 キツネはしっぽをゆらりとふって、たくさんの火の玉を飛ばしてくる。
「く……!」
 床を転がって、なんとかよけた。
 机やパイプイスに火の玉が当たり、生徒会室は一瞬で、熱気とケムリのにおいに包まれる。
 ジリジリジリジリジリジリ──!
 火災報知器が鳴りひびき、天井のスプリンクラーから水がふきだした。
 でも、水なんて全然効いてない。
 キツネは九本のしっぽを広げ、背後に大きな炎を集めはじめた。
『そのくもった鏡で、戦えるとでも?』
 頭に直接ひびくような、低い声。
 いつもの先輩の、甘い声じゃない。これが、キツネのオニの声。
 チラリと、手元のかんざしを見る。
 確かに鏡は、くもったままだ。
 でも──。
「さっき先輩と話していて、気づけたことがあります」
 机のかげに隠れるのをやめて、わたしはキツネの前に出た。
 空気が、ものすごく熱い。ほとんど息ができない。
 ごうごうと燃える炎が、顔に熱を吹きつけてくる。
 スプリンクラーは、もはやなんの意味もない。
「わたしはずっと、中学デビューで変わらなきゃって、必死だったけど」
 お花が好きっていっても、笑われないために。
 似合わないって、いわれないために。
 わたしは、わたしがずっとがんばってきたことを、隠さなきゃいけなかった。
 周りに合わせて、わたし自身に、ウソをつかなきゃいけなかった。
「自分を無理やり変えようとするのは……ココロをうばっていたキツネといっしょだ、って!」
 ──「そんなこと心配するほうが、白沢さんらしくない」
 竜ヶ水先輩の、いいたかったこと。いまなら分かる。
 心のモヤモヤが、すっきりと晴れたように感じる。
「もう、みんながわたしをどう思うかなんて、気にしない!」
 かんざしをかまえる。
 先端についた鏡が、キラリと輝きをとり戻す!
「わたしはもう、自分を否定しない! わたしはわたし!」
 ポケットからとり出すのは──伊織からもらった、まっ白な花。
「ムクゲ! 花言葉は『信念』!!」
 わたしの言葉に応えるように、ムクゲの花を映した鏡がまぶしく光った。
 灼熱の空気の中、大きな花びらが美しく舞いあがる。
 体の底から、力がわいてくる!
『何が信念だ! そんな言葉で何ができる!』
「知りたいなら教えてあげましょう!」
 びしゃびしゃの床をけり、一瞬で距離をつめる。
『な──』
 ひるんだキツネのスキを見逃さない。
 胸元のふさふさな毛を、グッとつかむ。
「わたしの信念は!!」
 相手のふところに入ってしまえば、あとは自然に体が動く。
 ずっとずっと、どんなに苦しいときも、練習してきた技だから!
「『柔よく、剛を制す』!!」
 




 これがわたしの一番の得意技! 背負い投げだ!
『う……!』
 大きな炎が、はじけるようにふき飛んだ。
 床に叩きつけられたキツネの周りに、はらはらと、ムクゲの花びらが落ちる。
 どんどん、その姿がかすんでいって──。
 霧が晴れるように現れたのは、横たわったほむら先輩の姿だった。
「か……体が、動かない……」
「先輩……」
「長く生きてきたけど。こんなことになるのは、初めてだ……」
 ずっと鳴っている火災報知機の音が、なんだか小さくなったように感じた。
 遠くから、消防車のサイレンがひびいてくる。
 スプリンクラーの水に打たれながら、ほむら先輩は疲れきったように、はーっと長く息をはいた。
「……ボクの負け。認めるよ」
「ほむら先輩、あの……」
「何? まだ何か、いいたいことがあるわけ?」
 ムスッとした顔のほむら先輩の横に、わたしはゆっくりとひざをついた。
「わたし、ほむら先輩に生け花を教えてもらえて、すごく楽しかったです」
「………………」
「それに、先輩の生けるお花も、とても先輩らしくて好きでした」
 ほむら先輩は何もいわず、数回、ゆっくりとまばたきをする。
「わたし、もう一度先輩と生け花がしたいです。先輩がお花を生けるときの真剣な顔は……本物だったんじゃないかな、って思うから」
「……ふん」
 プイッと子どもみたいに顔をそむけて、ほむら先輩はまた息をはいた。
「……キミにもっと早く会っていたら、ボクは──」
 言葉の途中、その体がぶわっと火をあげる。
 同時に、たくさんの光のつぶが、部屋いっぱいにあふれだした。
 まっ白な光に包まれる。
(まぶしい!)
 ぎゅっとまぶたを閉じてしまい、あわてて、目を開けると。
「……ほむら先輩」
 そこにはもう、焦げあとの周りに落ちた白い花びらしか、残っていなかった。

第16回つづく>

 

【書誌情報】

絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!
わたし白沢みくに。柔道がトクイだけど、中学では大好きなお花の似合う"おしとやかな子"をめざそうと思ってるんだ。でも、「学園のピンチをすくえるのは君だけだ」って、ヒミツのおやくめをはじめることに!?


はなバト! 咲かせて守る、ヒミツのおやくめ!?

  • 作:しおやま よる  絵:しちみ
  • 【定価】814円(本体740円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046322678

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▼気になる2巻は2月7日発売だよ!

部活もおやくめも大ピンチ!? 花言葉でみんなを救うストーリー、2巻め!
華道部が"廃部"の危機!? なのに、伊織もやめるって言い出して……? 七夕まつりでは、竜ヶ水先輩とのペア解散のピンチ!? 花言葉でみんなを救う【おやくめ】ストーリー、トラブルだらけの第2巻!


はなバト!(2) 想いがうずまく七夕まつり!?

  • 作:しおやま よる  絵:しちみ
  • 【定価】836円(本体760円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046322685

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