KADOKAWA Group
ものがたり

【第1章ためし読み】廣嶋玲子『おっちょこ魔女先生 保健室は魔法がいっぱい!』

「うわ、ますます魔女っぽい」

「これが魔法の大鍋です。薬を作るのはもちろんのこと、これで魔法湯をわかして()びこめば、どんな魔法や(のろ)いも落とすことができます。でも、人間には(あつか)えません。この鍋は、()()で作った炎でなければ、温められないんです」

「それって、人間のあたしじゃ火もつけられないってこと? なら、先生の魔法を()くなんて、(ぜっ)(たい)()()ってことなんじゃない?」

「ちちち。あきらめるのは早いですよ、(まつ)(たに)さん。そこで、あそこにある魔気(しゅう)(しゅう)ポットの出番というわけです」

ハムスターは今度は棚の上を(ゆび)()しました。

そこにあったのは、丸いティーポットでした。真っ黒で、なんだか不気味です。

「ティーポット?」

(じゅん)(すい)な魔気をとりだすティーポットです。魔気がたりなくなった魔女は、魔物を捕まえては魔気にして、このポットに入れるんです。すると(とく)(べつ)なお茶になるので、それを飲んで、力を高めるんですよ。今回はそれを(まつ)(たに)さんに飲んでもらって、鍋に火をつけてもらいます。あ、そうだ。横にメガネがあるでしょう?」

「これのこと?」

いさなは、横に()いてあったメガネを手に取りました。ティーポットに(くら)べると、こちらはどこにでもあるような普通のメガネに見えました。

「これも魔法の道具なの、おっちょこ先生?」

「そうですとも。これには強いまじないがかけてあって、普通の人間でも魔物が見えるようになるんです。これで(まつ)(たに)さんでも、魔物を捕まえることができるようになりますよ。ちゃっちゃと集めて、早くわたしを助けてください」

早く早くと言われて、いさなは(こま)ってしまいました。

「だけど、魔物を集めるって言っても……だいたい、魔物なんて、そう(かん)(たん)に見つからないでしょ?」

「そうでもありませんよ。人間に見えないだけで、けっこう身近にいるものです。手始めに、(まつ)(たに)さん、あなたの魔物を捕まえましょう」

「え?」

()いてますよ、魔物」

いさなは(おお)(あわ)てでメガネをかけて、大きな(かがみ)の前にとんでいきました。

「げっ!」

本当にいました。(かた)のところに、ぷくっとした()(みょう)な生き物が乗っていたのです。

大きさは卵くらいで、色はイチゴのように赤く、黒い(しま)()(よう)がついています。体や顔つきは(ねこ)()ていますが、しっぽは三本もあり、しかも先が(やり)のようにとがっています。耳の先はくるりとカールしていて、目は月のような銀色。大きな口は、にししと、意地悪そうな笑いをうかべています。



あまりにびっくりしたので、いさなはこおりついたように動けなくなってしまいました。はらいのけたいのに、(うで)はぴくりともしません。やっとのことで声をしぼりだしました。

「おっちょこ先生……こ、こ、これ、なに?」

 


この記事をシェアする

ページトップへ戻る