3月5日(木)発売予定の『怪盗レッド THE FIRST』を発売前に公開!
これまでのお話はコチラから。
▶プロローグ&第1話
▶第2話 教室で僕は擬態する
▶第3話 はた迷惑な来訪者
▶第4話 放っておけない同級生
▶第5話 圭一郎の〝推測〟
▶第6話 80%のヒーロー
▶第7話 勇気と無謀のあいだ
8 似たもの兄妹
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴って、放課後になる。
僕が教室を出ると、すでに紅月先輩が待っていた。
「よぉ、圭一郎」
いつものように、声をかけてくる。
いつもなら、ここで少し会話して終わりだけれど、今日はちがう。
「行きますよ」
僕はそっけなく言って、すぐに靴箱にあるほうにむかって、歩き出す。
「おい、おいてくなよ」
紅月先輩が、あわてたように追いかけてくる。
僕と紅月先輩の歩幅の差なら、すぐに追いつけるのだから、おいてかれる心配なんてないだろうに。
ろう下にいる1年生の生徒が、僕の横を歩く紅月先輩を見て、目を丸くしているけど、今は気にしている場合じゃない。
靴にはきかえて校門の前まで行くと、生徒が校門のあたりで歩く速度をゆるめて、なにかを見ているのがわかる。
なんだろう? 疑問に思いつつ、僕と紅月先輩も校門を通りぬける。
「……待ちくたびれたよ、お兄ちゃん」
女の子の声に、僕は足を止める。
校門によりかかるようにして、小学校4〜5年生ぐらいの女の子が、立っている。
茶色がかった髪に、目はくりっとしているけど、飄々とした雰囲気をまとっている。

ガムをきれいに、ふくらませている姿が、妙に似合ってる。
その視線の先にいるのは……。
「これでも、いそいだほうだぞ」
紅月先輩が、その女の子に答えている。
「紅月先輩。知り合いですか?」
最初の一言で想像はついていたけど、念のためにたずねる。
「ああ、おれの妹だ」
「初めまして。圭一郎お兄さん。わたしは紅月美華子、小学4年生です。今日はよろしくお願いします」
紅月先輩の妹──美華子ちゃんは、ぺこりと頭を下げてから、興味深そうに僕に視線をむけてくる。
紅月先輩より、よっぽど礼儀正しい。
それにしても、今日はよろしくって……先輩?
僕は、紅月先輩のほうをジロリと見る。
「いやあ、悪いな圭一郎。圭一郎の家に行くって話をしたら、一緒に行きたいって駄々をこねるから、ここで待ち合わせることにしたんだよ」
「なに勝手なことをしてるんですか……」
これから話すのは、危険をともなう話だ。
そんなことに、小学生の妹を巻きこむつもりなのだろうか。
それに、紅月先輩の家で、僕はいったいどういう存在なんだろう。
妹さんに知られてるのもおどろきだけど、駄々をこねるほどって、意味がわからない。
「美華子は大丈夫だから、心配いらない」
紅月先輩が、自信ありげに言う。
なにが大丈夫なんだか。
だけど、ここで美華子ちゃんを1人で帰らせようとしても、納得しないか。
紅月先輩が説得する気はなさそうだし、校門前でこれ以上、立ち止まって話していると、通りかかる生徒の視線が、だいぶ痛い。
「……わかりました。とにかく、行きましょう」
歩き出した僕のあとを、紅月先輩と美華子ちゃんが、なぜかうれしそうについてくる。
それにしても、あんまり似てない兄妹だな。
……いや。雰囲気というか、性格は似てるような気がする。
この目立つ校門の前で、ずっと待ってたぐらいだし。
ふつうなら、中学生の集団からじろじろと見られて、萎縮していてもおかしくないところを、ガムをふくらませながら待ってるなんて、よっぽどいい性格をしている証拠だろう。
そうして、僕たちは、自宅のあるマンションに、帰ってくる。
「ここが圭一郎の家か」
「すごいね! お兄ちゃん」
マンションの部屋の玄関前で、紅月兄妹が、変哲のないドアを見て、興奮したように話している。
どこに、そんなうれしがる要素が、あるんだろうか。
疑問に思いつつも、僕はドアを開ける。
「2人とも、どうぞ」
僕は、紅月先輩と美華子ちゃんを、家に招き入れる。
リビングに行ってから、2人にはそこで待っていてもらい、僕は自室で制服を着替える。
本当なら、これから紅月先輩と、宝石強盗犯の話をするはずだったのだけど、美華子ちゃんがいてできるんだろうか。
どうも、紅月先輩と美華子ちゃんのペースに、流されたような気がする。
僕は、自分がこんなに流されやすいタイプだとは、思っていなかったんだけど。
いや。紅月先輩たちがおかしいんだと思う。そう思いたい。
問題は、僕と紅月先輩が話している間、美華子ちゃんをどうするかだけど、お菓子でも出して、食べながら遊んでいてもらうしかないか。
連れてきてしまった以上、そのことを悔いていてもしょうがない。
僕はそう判断して、自分の部屋からリビングにむかう。
「こっちにきてください。僕の部屋で話しましょう」
リビング内をキョロキョロしていた紅月兄妹が、目を輝かせて僕の部屋のほうにやってくる。
「おおっ! ここが圭一郎の部屋なんだな!」
紅月先輩は、なぜか感動したように、ドアの前で声をあげる。
「近所迷惑だから、大声を出さないでください」
僕は、ジト目で紅月先輩を見る。
「す、すまん……つい興奮して」
だから、なんで僕の部屋にくることに、興奮するんですか。
そう質問したかったけど、話がそれそうだから、やめておく。
それに、考えるだけムダな質問な気がしたから。
紅月先輩のとなりにいる、美華子ちゃんまで目をキラキラさせて、僕の部屋をのぞいてるし。