3月5日(木)発売予定の『怪盗レッド THE FIRST』を発売前に公開!
これまでのお話はコチラから。
▶プロローグ&第1話
▶第2話 教室で僕は擬態する
▶第3話 はた迷惑な来訪者
▶第4話 放っておけない同級生
▶第5話 圭一郎の〝推測〟
6 80%のヒーロー
放課後、僕はいつものようにやってきた紅月先輩を、適当にあしらってから、駅前にむかった。
「ここか」
着いたのは、強盗事件があった貴金属店。
まだ、警察の捜査が続いているらしく、店の前には黄色い規制線がはられていて、制服姿の警官が2人ほど立っている。
足を止めて、ものめずらしそうに見る人がけっこういるから、僕が足を止めて店のほうを見ていても、警官もなにも言わない。
規制線を越えなければ、注意はされないらしい。
でも、僕の興味があるのは、この貴金属店の中じゃない。
そのまま、僕は駅前を通り過ぎ、住宅街に入っていく。
昨日、黄瀬さんと指輪を捜した公園までやってくる。
普通に歩いても15分といったところか。走ったら、その半分以下ですむはずだ。
今日は、黄瀬さんは指輪を捜しにきていない。
学級委員の仕事があるから、捜しに行けないと、黄瀬さん本人からきいている。
だから、僕は公園の前で立ち止まって考える。
頭の中に思いうかべているのは、このあたり一帯の地図だ。
昨日のうちに、ネットで調べて、周辺の地図は頭に入っている。
「……貴金属店で強盗をした犯人たちは、バラバラに逃走した。車を使わなかったのは、駅前まわりに多い、防犯カメラを避けたからだろう。車なら道路を走る以上、防犯カメラに映らないことは難しい。だが、走って逃げるなら、防犯カメラの位置を前もって調べておけば、避けて逃げることができる。そして、ニュースを読む限り、今回の犯行で、防犯カメラの映像に犯人が映ったのは、貴金属店内だけ。その手口は、となりの市で貴金属店が強盗されたときと、同じものだ。同一犯と考えて、まずまちがいない」
僕は、ぶつぶつとつぶやきながら、考えをまとめていく。
だが、もしここで黄瀬さんがぶつかったのが、強盗犯であるなら。
犯人たちは初めて、逃走ルートの一部を人に明かしてしまったことになる。
だからこそ、推測であっても、早くに動く必要がある。
手がかりになりかねない黄瀬さんが、強盗犯に狙われないとも限らない。
まして、黄瀬さんは指輪を捜して、このあたりを歩きまわっている。
このまま捜し続けていたら、強盗犯が積極的に手を出すつもりはなくても、黄瀬さんから相手の手中に飛びこんでいくことに、ならないとも限らない。
僕の考えがまちがっていたなら、それが一番いい。だけど、僕にはそう思えない。
「……問題は、ここが逃走ルートなら、ここからさらにどこへむかったかだが……」
僕は、頭の中の地図を探る。
人目につかないところ。もしくは、見知らぬ人間の出入りが増えても気にならないところ。
強盗犯たちは、そういう場所にむかったはずだ。
そうなると住宅街は、ほぼあり得ない。
他人に無関心な人が増えたとはいえ、あやしい人間が出入りすれば、目につくことには変わらない。
「そうなると、ここから住宅街を抜けた場所か……」
僕は頭の中で、地図の範囲を広げる。
そして、ゆっくりと公園から、犯人の逃走ルートをトレースしながら、歩き出した。
◇◆◇