3月5日(木)発売予定の『怪盗レッド THE FIRST』を発売前に公開!
これまでのお話はコチラから。
▶プロローグ&第1話
▶第2話 教室で僕は擬態する
▶第3話 はた迷惑な来訪者
4 放っておけない同級生
今日は午前授業だったから、一度家に帰ってから、僕は出かけることにした。
家にいても、今日はなにかする気にならなかったし、街をぶらぶらするのは嫌いじゃない。
最初は図書館にむかったけれど、運悪く休館日だった。
しかたなく、駅近くの書店にむかう。
駅前は、さすがに人通りが多くて、ざわめいている。
いつもより、ちょっと浮き足立っている感じがするけど、気のせいだろうか。
そんなことを考えつつ、書店の中に入る。
書店に入ってしまえば、話し声もまばらで、静かだ。
僕はコンピュータ・プログラミングの本の棚に行き、何冊か手に取って、パラパラと中身を見る。
このあたりの書店においてあるのは、入門書的な本ばかりなので、書いてある内容は、すでに僕の頭の中にも入っている。
それでも、こうやって本をながめているだけで楽しいから不思議だ。
もっと高度な本となると、電車で20分ほど行った大きな街に行くか、ネット書店で取り寄せるかになる。
ネット書店で取り寄せると、中身を確認できないから、本当にほしい内容のときしか使わない。
また、来月のお小遣いが入ったら、大きな書店に行ってみよう。
興味深い本が入っているかもしれないし。
そんなふうに、ぶらぶらしてから外に出る。
1時間ぐらい、書店にいたらしい。
それでなにも買わなかったから、申し訳ない気持ちになる。
でも、今月のお小遣いは、すでにほとんど使い果たしていて、無駄遣いはできないから、しょうがない。
「……近くで強盗事件があるなんて、本当に怖いわね!」
「そうそう! 駅の反対側の貴金属店でしょ。早く犯人をつかまえてほしいわ」
少し歩いたところで、道の端でおばさん2人が、大きな声で話しているのが、きこえてくる。
…………強盗事件?
駅の反対側の貴金属店というと、あそこかな。
僕とは縁がない場所だから、あまりはっきり覚えているわけではないけど、そういう店があったのは、記憶にある。
あの店が、強盗に襲われた?
そこまで考えて、ふと数日前の新聞の地方版で、となりの市で貴金属店を狙った強盗事件が立て続けに起きている、という記事を読んだことを思い出す。
あの強盗グループが、この街にやってきたのだろうか。
気になる話だけど、僕には関係ないか。
いずれ逮捕されるだろうし。
駅前の大型モニターでは、ニュース番組が流れていた。
キャスターが解説者と会話している。
『あと2週間で、環境国際会議が始まりますね。この会議は、世界130ヵ国の代表が集まる、大規模な国際会議となっています。この会議に合わせて、初めて使われることになる、〇×県に新設された国際会議場にも注目が集まっており……』
そういえば、県内で国際会議があるんだっけ。
場所も、割とここから近いんだけど、同じ市内っていうわけではないから、街をゆく人も他人事っていう雰囲気だけど。
ただ、会議の警備のために、人員が割かれているせいで、強盗事件の捜査が遅れているっていうことはあるのかも。
駅前を通りすぎ、住宅街をぶらぶらと歩く。
さわがしかった駅前とちがい、このあたりは昼間でも人がまばらに歩いている程度で、ずいぶんと静かだ。
腕時計を見ると、午後3時。
少し早いけど、家に帰ろうか。
そんなことを考えていると、小さな公園が見えてくる。
砂場と鉄棒があるぐらいで、遊具もあまりない殺風景な公園だけど、幼稚園ぐらいの子どもが、ボールを蹴って遊んでいる。
ベンチでは、母親らしき女の人たちが、おしゃべりをしていた。
……ん?
僕は公園脇の道路に、目を止める。
下をむいたまま、ゆっくりと歩く人影がある。
というか、あれは黄瀬さんだ。
黄瀬さんは、地面を食い入るように見渡しながら、前も見ずに歩いている。
挙動不審というか、めちゃくちゃあやしいんだけど。
ベンチにすわる女の人たちも、たまにチラチラと黄瀬さんに視線をむけているし。
「黄瀬さん?」
僕は近づいていって、おそるおそる声をかける。
「あ……藤白くん……」
黄瀬さんが、顔をあげると、泣きそうな声で僕の名をよぶ。
「どうかしたの?」
僕は、黄瀬さんを落ちつかせるように、優しい口調を心がけて、たずねる。
「…………」
黄瀬さんは、迷ったような表情で、なにも言わない。
う〜ん……黄瀬さんが嫌がっているなら、首を突っ込むべきじゃないけど。
たぶん、これはそういう迷いじゃない……と思う。
そう判断して、僕から話を切り出す。
「落とし物でもした? たとえば、この間の朝に見た、チェーンのついたアクセサリーとか」
「えっ、どうしてわかったの!?」
黄瀬さんは、目を見開いて、おどろいた顔をしてる。
そんなに、おどろかれるようなことじゃないんだけど。
黄瀬さんが、校則違反までして持ってきていたアクセサリーが、ただおしゃれのためだったとは思えない。
なにか、お守りのような、個人的に大切なものである可能性が高い。
そして、今の黄瀬さんの挙動不審な様子が、地面に落ちた物を捜しているのだと、すぐにわかった。
とはいえ、これだって〝可能性が高い〟というだけで、べつに確信があったわけじゃない。
「なんとなく、そう思っただけだよ」
僕は、言葉をにごす。
こんなことまで考えていたと知られたら、気味悪がられるかもしれない。
ちょっとした情報を僕に与えたら、秘密が暴かれる、と思われてしまうかもしれない。
小学生のとき、似たようなことで失敗して以来、なるべく、推測を口に出さないようにしている。
でも、今は緊急事態だと思って、つい口に出してしまった。
実際には、僕は超能力者じゃないし、ただ、予測をたてることしかできないんだけど……。