3月5日(木)発売予定の『怪盗レッド THE FIRST』を発売前に公開!
これまでのお話はコチラから。
▶プロローグ&第1話
▶第2話 教室で僕は擬態する
3 はた迷惑な来訪者
授業もすべて終わり、放課後になると、教室があわただしくなる。
早く帰宅しようとする生徒や、部活にむかう生徒などで、一気にさわがしくなる。
僕は、カバンに荷物をまとめる。
残念ながら、僕には今のところ、一緒に帰るような仲がいい相手がいない。
だから、1人で教室を出る。
でも、それでよかったのかもしれない。
ドアの近くのクラスメイトや、ろう下にいる他のクラスの1年生が、浮き足立ってざわめている。
そのクラスメイトや1年生の視線を追って……僕はそっとため息をつく。
みんなの視線の先が、1人の男子生徒にむかっていることを確認したからだ。
「よっ、圭一郎!」
僕がろう下に出たところで、すぐに、その男子生徒が、声をかけてくる。
体格はがっしりとしていて、精悍で整った顔立ちは、学校中を探しても、ほかにはいないはずだ。
髪は短めで、体格からいってもスポーツをしているらしい雰囲気は、運動音痴の僕にも伝わってくる。
体格から、ひと目で上級生だとわかる、その男子生徒に、僕はむきなおる。
「紅月先輩」
僕は、うんざりしながらその名前を呼ぶ。
「なんだ、反応が冷たくないか!?」
大柄の男子──紅月先輩は、僕の言葉にショックを受けたような表情をしてる。
「冷たくないですよ。毎日のように、放課後に現れては、意味もなく声をかけられたら、少しは慣れてきます」
僕は、冷めた目で紅月先輩を見る。
まだ5月の半ばだというのに、この3年生の紅月翼先輩と知り合いになったのは、なぜかこうして毎日声をかけられるからだ。
初めは、中学の入学式が終わって帰ろうとしたときだった。
紅月先輩は、突然、僕の前に現れて、こう言ったんだ。
「おまえ、藤白圭一郎だよな? おれは紅月翼、3年だ。よろしくな」
今と変わらない、気やすい口調の紅月先輩に、僕は一瞬どう反応していいのか、迷った。
「よろしく、お願いします……?」
結局は、疑問形になりながら返事をすると、紅月先輩はまぶしいような笑みをうかべた。
そして、じゃあな、と言って去って行った。
記憶力は人よりもいいほうだが、その顔にはまったく見覚えがなかった。
紅月先輩の様子からも、僕のことを知っているふうでもない。
名前を確認してきたぐらいだし。
だから、最初は部活の勧誘かとも思ったけど、僕は紅月先輩とちがって、入学式直後に勧誘されるような、目立った特徴は持ちあわせていない。
まちがっても、スポーツがむいている、なんて思われるような体格はしてない。
見るからに苦手だと思われるほうだし、実際その通りだ。
それなのに。
入学式から今日まで、学校がある日は毎日、紅月先輩は放課後すぐに、僕のクラスにやってくる。
そして、僕とあいさつをして、たいした会話もせずに帰っていくことのくり返し。
3年生の先輩が、毎日あいさつをしにくる1年生。
僕のような性格で、その状況が楽しいはずもない。
僕だって、それを放置していたわけじゃない。
入学式から1週間ぐらいしたころに、きいてみたんだ。
「いいかげん、そろそろ用事を言ってくれませんか。毎日、教室に来られて迷惑なんです」
「用事? とくにないぞ、圭一郎と話がしたいだけだ」
「ヒマなんですか」
「ヒマではないな」
──なにを考えているのか、さっぱりわからない。
本当になんの用事もないのか、疑わしいけれど、本当になにも言ってくる様子がないのだから、どうしようもない。
それとも、ただの先輩の気まぐれなのか。
だとしたら、僕のささやかな日常を邪魔しないでもらいたいけど。
「おーい、圭一郎。無視するなよ」
紅月先輩の声に、僕はふと我に返る。
