「黄瀬さん、ストップ」
僕はよび止める。
「なに?」
黄瀬さんは、その場で首だけひねって、僕を見る。
「カバンから、チェーンが見えてる」
僕は、黄瀬さんのカバンを指さす。
カバンの中から、銀色の細い鎖が垂れ下がっている。
「あ、まずっ!ありがとう、藤白くん!先生に見つかったら、取りあげられるところだったよ」
黄瀬さんは、あわてたように、鎖をカバンの奥に丁寧にしまう。
意外だけど、アクセサリーだろうか。
黄瀬さんは、規則に厳格っていうわけでもないけど、アクセサリーを隠して持ってくるタイプにも、見えなかったけど。
どちらにせよ、僕には関係ない。
こうやって、ときどき話す程度のクラスメイトなんだし。
「ほんとにありがとね!」
黄瀬さんは、教室のドアのところで、もう一度お礼を言って、教室を出ていく。
僕は静かになった教室で、読書を再開する。
そうして、さらに10分ぐらい経っただろうか。
ふと、小さなざわめきがきこえるのに、気づいて、僕は読書を止めた。
教室にクラスメイトが、ぽつりぽつりとやってきている。
僕は本をカバンにしまって、ノートを開いて勉強をしているふりをする。
「おはよう、藤白」
「いつもはやいな」
「おはよ。そんなに早く、よく起きられるな」
登校してきたクラスメイトの男子が声をかけてくるのに、僕は適当に返事をする。
友達と呼んでいいのか、微妙なところという関係だ。
一緒にいれば話すし、お昼を食べたりもするけど、学校が終わってまで遊びに行くほどじゃない。
友達付き合いに疎い僕には、そのあたりの判断に、今一つ自信がないけれど。
この友達未満の男子たちには、電子工学とかの、黄瀬さんの言う「むずかしそうな本」を読んでいるところは見せないようにしてる。
そんな本を読んでいれば、クラスで目立つだろうし、その目立ち方はいいものじゃないだろう、と考えたから。
自分が、人とちょっと……いや、だいぶちがうかもしれない、と僕はうすうす感じている。
そんなことを言うと、格好つけているように思うかもしれないけど、少し成績が良いだけなら尊敬されても、切れすぎるのは、必ずしも歓迎されるものじゃない。
そのことを、僕はこれまでの人生で何度も味わっている。
黄瀬さんにだけは、入学したてのころ、こんなに早く教室に来る生徒がいるとは思っていなかったから、油断して見られてしまった。
とくに態度を変えることもなく、ほかの女子に僕のことを話したりもしていないらしいから、気にしないですんでいる。
だれもが黄瀬さんと同じだったらいいけれど……。
そんなことを考えつつ、僕はなんとなく男子たちの会話の輪の中に入って、ほどほどに相づちを打ったり、適当に話をしたりした。
そんな自分を、冷静に俯瞰する自分のことを、感じている。
なんだか僕は、擬態しているみたいだって。
自分だけが、この教室の仲間としてふさわしくないのに、ウソをついて交ざっているかのような、そんな違和感。
いや。そんなことない。
僕だって、ただの中学1年生だ。特別なんかじゃない。
今みたいなことを思っているって、黄瀬さんに言ったら、
────藤白くんは自意識過剰だね。
って、きっと笑われるな。
第3話「はた迷惑な来訪者」へ続く。
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