3月5日(木)発売予定の『怪盗レッド THE FIRST』を発売前に公開!
これまでのお話はコチラから。
▶プロローグ&第1話
2 教室で僕は擬態する
中学校に着いたのは、8時過ぎ。
学校は遠くで部活の練習らしきかけ声はきこえるけど、基本的には昼間とはちがった静けさがある。
僕はうわばきにはきかえて、教室にむかう。
1年1組。
プレートにそう書かれた教室に入る。
だれもまだ来ていない。
これもいつもどおり。
この静かな教室も、好きだ。苦手な早起きをしてよかったと、また考える。
僕は、窓ぎわの自分の席にすわると、カバンから本を取り出して、読み始める。
10分ほど経っただろうか。
ガラガラ、と教室のドアが元気よく開く。
ちらりとそちらに視線をむけると、クラスメイトの黄瀬美緒さんが入ってくるところだった。
「おはよう、藤白くん。あいかわらず早いね」
黄瀬さんは、僕と目が合うと、笑顔でそう言った。
自分で言うのもなんだけど、愛想のいいほうじゃない僕に、こんな風に気軽にあいさつしてくるクラスメイトの女子は、黄瀬さんぐらいだ。
男子でなら、話す友達がいないわけではないけれど。
まだ1年生の5月だっていうことを差し引いても、僕は友達が多いほうではないし。
「おはよう」
僕は、短くあいさつする。
黄瀬さんは、背丈は僕より少しだけ大きく、髪型はハーフアップにまとめてある。
目がぱっちりとしていて、活動的な雰囲気をまとってる。
とびっきりの美少女というわけではないけど、親しみやすくて、しっかり者で……かわいいとも思う。
黄瀬さんは、僕のとなりの席にカバンをおくと、僕のほうを見た。
「今日は、なにを読んでるの?」
小首をかしげて、黄瀬さんがきいてくる。
「電子工学の本」
僕は、カバーをかけていない本の背表紙を、黄瀬さんにむける。
「むむぅ……でんしこうがく? 藤白くんってむずかしい本が好きだよねー。昨日は、りょうしぶつりがく?の本だったし、その前は、ぽあんかれよそう?とかいう本だったし」
黄瀬さんは、ピンとこなかったのか、あまり本には興味がそそられなかったという顔をしてる。
その割には、本のタイトルはよく覚えているけれど。
「好きというか、興味があるだけ」
僕は答える。
言ってしまってから、ぶっきらぼうすぎたかな、と少し気になる。
僕は小学校のときも友達が多くなかったし、まして女子となると話した機会は多くない。
うちは母さんがいないから、女の人と話すことがなくて、どうにも慣れないんだよな。
「そういうのを、好きって言うと思うんだけどね」
黄瀬さんが、笑ってる。
どうやら、僕に愛想がないことは、気にならないらしい。
「それじゃあ、わたしはクラス委員の仕事があるから、行くね」
黄瀬さんが、カバンを持って席を立つ。
彼女がこんなに早くに学校に来ているのは、学級委員長としての仕事があるかららしい。
僕なら、そんな面倒そうな仕事は引き受けないけれど、黄瀬さんはまだクラスに知らない顔も多い中、立候補して、すんなりと決まった。
もともと、学級委員をやるつもりだったのかもしれない。
たしかに、僕に話しかけることといい、世話焼きで気やすいところがあるし。
僕は、そんな黄瀬さんが席から離れるのを見て、ふと視線がそのカバンに行く。