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ものがたり

【最新20巻発売記念・ためし読み】『世界一クラブ 動物園見学で大パニック!?』第3回

11 きょうだいゲンカ注意報!?


 はあっ、はあっ。

 ああもう、ご飯を食べたばっかりなのに!

 光一は、人とぶつからないように注意しながら、クリス、和馬、春奈と四人で通路を走る。

 お弁当が軽くなっていることだけが、唯一の救いだ。

「春奈、動物の声はこっちからしたよな!? あの、金切り声みたいな──」

「うん。たしか、この先にはサル山が──あっ、光一くん、あそこ!」

 春奈が指さしたほうを見ると、人だかりの向こうに、サル山の頂上がのぞく。

 変だな。やけにサルが山頂に集まってる。何があったんだ?

「すみません、通してください!」

 声をかけながら人ごみを抜けると、サル山の前にいるすみれと健太が見えてくる。

 すみれは、サルが集まった山頂にカメラを向けている。健太は──。

「「サルに話しかけてる!?」」

「ウキキ、キキキーッキキ!」

 健太がサルの声まねで話しかけた瞬間、左にはみ出していたサルが、とことこと移動して、行列へ、きれいにおさまった。

 もしかして、今の、健太の声かけで動いたのか!?

「すみれ、健太、何やってるんだ!?」

「あ、光一。みんなも。今、健太にサルの鳴きまねで話しかけてもらって、集合写真を撮らせてくれないか、お願いしてたの。サル全員で撮れば、大迫力になると思って!」

「話が通じたのか、サルさんがどんどん集まってくれたんだ。すごいでしょ」

「いや、たしかにすごいけど……」

 サルを、こんな一か所に集めていいのか?

「二人とも、すぐにサルを解散させないと。このままだと、小さなきっかけで──」

「よーしっ、シャッターチャンス! あとは、カメラをサル山に近づけて……んんっ、意外とアップにならない!? もうちょっとだけ!」

 すみれが、サル山にカメラを向けたまま、ぐんと腕を伸ばす。

 カメラのフレームしか見えていないのか、手が柵の上を越えて、中に入った。

 ──マズい!

「すみれ、近づけすぎだ!」

「え?」

 キキーッ!

 サルの行列が崩れはじめる。中でも一番上にいたサルが、すみれに勢いよく飛びかかった。

 危ない!

「わっ!」

 光一が動くより早く、すみれが、カメラを持った手をさっと引っこめる。

 カメラに飛びかかろうとしたサルは、少し下の壁を足場にして一度着地すると、ピョンピョンと飛びはねながら水場のほうへ走っていった。

「……はあっ」

 ぶつかるかと思った。

 多少、手を伸ばしたくらいじゃ、接触しないように作ってあるとは思うけど──。

「飼育員です、通してください!」「みなさん、サル山からはなれて!」

 急いでやってきた飼育員が、強ばった顔で、健太につめよった。

「ケガはないかい? それと、騒ぎを起こしたのは、きみかな」

「え! ああ、ええっと」

「待ってください!」

 すみれが、健太と飼育員の間に、さっと割って入った。

「騒ぎを起こしたのは、あたしです。友だちは、あたしにお願いされただけで──だから、話はあたしにしてください」

「えっ、ああ……」

 二人の飼育員は、一瞬、すみれの迫力に気おされたものの、また険しい顔になった。

「とにかくダメだよ、柵から手を出して動物を刺激しちゃ。動物だって驚くんだ」

「迫力のある写真を撮りたいのはわかるけど、無理に近づけば、ケガをするキケンもある。わかるね?」

「はい……本当にすみませんでした」

 すみれが深々と頭を下げる。

 二人の飼育員が、やっとサル山の前から去っていくと、集まっていた人たちも、一人、また一人とその場をはなれはじめる。

 ……まったく。

 光一が、じろりとにらむと、すみれは、うっと顔をしかめた。

 クリスが、すぐにすみれと健太に駆けよる。

「二人とも、だいじょうぶ? ケガはなかった?」

「うん。あたしは平気。それより健太、本当にごめんね。あたしのせいで怒られちゃって……」

「いいよ、すみれ。ぼくがOKしたんだから。むしろ、ごめんね。えーっと、まさか、こんなにサルさんと話せちゃうなんて思ってなくてさ!」

「……五井は少し反省すべきじゃないか。事前に、先生にも注意されていただろう」

「うう~、悪かったってば! どうしても、いい写真が撮りたくて、がんばりすぎちゃって!」

「……いい写真を撮るために、やったの?」

 あ。

 みんなが振りむいた先で、春奈が体を震わせながら、うつむいている。

「春奈! えーっと、ごめん、心配かけて。もうしないから──」

 すみれが手をつかもうとした瞬間、春奈が、さっと手を引っこめる。

「お姉ちゃんは、勝手すぎるよ! あんなに、無茶しないでねって言ったのに……お姉ちゃんのばか!」

 拳をぎゅっとにぎりながら、春奈が、やっと顔を上げる。その目尻に、かすかな涙が、きらりと光った。

 けれど、春奈がくるりと背を向けて、涙はすぐに見えなくなる。

「……時間が足りなくなりそうだから、一人で先に見にいくね。ちゃんと集合時間には戻るから」

「待って、春奈!」

 すみれの伸ばした手を無視して、春奈が走りだす。

 すれちがう瞬間、光一の耳元で、小さなささやき声が聞こえた。

「……ごめんね、光一くん」

「春奈──」

 タッタッタッタ……

 振りかえったときには、春奈の小さな足音は、たくさんの来園者にまぎれて消える。

 ただ、すみれが、小さな背中を目で追ったまま、固まって立っていた。

「……はあ」

 致命的なトラブルは防げても、ケンカは防げなかったか。

 光一は、頭をかくと、大きくため息をついた。


『世界一クラブ 動物園見学で大パニック!?』
第4回につづく


書籍情報


作: 大空 なつき 絵: 明菜

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322722

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