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ものがたり

【最新20巻発売記念・ためし読み】『世界一クラブ 動物園見学で大パニック!?』第3回

10 特製☆スペシャルクッキー


 動物園って、こんなに走りまわるところだったか?

「もう……疲れた……」

 光一は、ベンチにふらふらと腰かける。

 時間は、もうすっかり昼時。やってきた広場では、来園者が思い思いにお弁当を広げている。

 あれから、おれたちは、他の来園者からクリスをかくしながら、必死に鳥を追いかけた。

 まず、健太が声まねをして、鳥と交渉。最初はうまくいかず、かえって逃げられそうになったものの、なんとか気を引いて呼びもどすことができた。

 あとは、和馬のワイヤーで鳥を安全に捕獲。眼鏡を取りもどし、無事に空に放つことができた。

「とにかく、クリスの眼鏡を取りもどせてよかったな」

 光一の言葉に、クリスが、がっくりとうなだれる。いつもきれいに整えている三つ編みも、走りまわってもう結び目がぐちゃぐちゃだ。

「みんな、本当にごめんね。わたしが、眼鏡を取られたから……」

「あー、だいじょうぶだ。動物園のつくりもよくわかったし、いい運動にもなったし……」

「そうそう。最近の光一は運動不足だったから、むしろよかったんじゃない? 動物園の中も、あと三周くらいはいけるって!」

「それは、多すぎだ!」

 すみれのボケに、思わずツッコむ。

 はあ、これでまだ昼か。

 午後もこの調子だと、帰るときには、フラミンゴの足みたいに、ガリガリになってそうだ。

「そろそろ昼休憩にしよう。みんな、おなかが空いただろ?」

「やった~! ぼく、お昼も楽しみにしてたんだ。みんなでのお弁当も見学のだいご味だよね」

「あたしも、おなかぺこぺこ! ふふん、今日は、お母さんにたくさん作ってもらったの。じゃーん!」

 すみれが、バッグから大きな三段のお弁当を引っぱりだす。フタを勢いよく開けると、食欲をそそるおいしそうな香りが、あたりに広がった。

 一段目はごはんと野菜。二段目は、からあげ。

 三段目も……からあげ!?

「すみれ、半分以上からあげになってるぞ!? 真希さんがつめまちがえたんじゃ」

「これも、頼んだの。動物園の肉食動物に負けられないってことで! いただきまーす」

 他のおかずを横目に、すみれが勢いよくからあげを食べはじめる。

 ……ずっとそれを背負ってたせいで、おなかが空いたんじゃないか?

「って、もしかして、春奈のお弁当も!?」

「ううん。わたしはふつうのお弁当だよ」

 春奈が、同じおかずの一人用のお弁当を開けながら苦笑いする。

 さすがにそうだよな……。

 あ、すみれと春奈のお弁当、トラ柄のかまぼこが入ってる。

 健太のお弁当には、ライオン形のおにぎりが三つ。茶色い顔のごはん部分は、めんつゆ味、たてがみは薄焼き卵みたいだ。

 クリスのコンパクトなお弁当にも、しっかりとウサギ形のりんごが入ってる。

 和馬は……あ、嫌いなミニトマトをしぶしぶ食べてる。今日は逃げきれなかったのか?

 和馬以外、みんな、動物園見学に合わせた、凝ったお弁当だな。

 光一は、バッグから包みを取りだす。入っているのは、二段のお弁当と、小さな容器だ。

 ……出すタイミングを逃したかも。

 そのとき、すみれが、横からひょっこりとのぞきこんだ。

「あれ? 光一のお弁当、あまい香りがしない? 久美さんのお弁当はいつも和風なのに。この香りは……わかった! たぶん、バターの香り。しかも、とびきりあまい、焼いたやつ!」

 鼻がよすぎる! 食事に関しては、探知犬並みか!?

「たしかに……ふんわりあまい香りがするね」「光一、何か持ってきたの? ぼくも見ていい?」

 クリスと健太に包みを見つめられて、光一は頭をかく。

「あー、じつは……」

 みんなのお弁当を見た後だと、ちょっとはずかしいな。

 でも、家で一人で食べるよりはいいか。

 光一は、包みから小さな容器を取りだす。

 プラスチックのフタを開けた瞬間、かすかにしていた香ばしいにおいが、あたりに広がった。

 サイ、シマウマ、バイソン──茶と黒でできた小さな動物たちが、容器の中でひしめいている。

 いろんな動物が大集合した、動物クッキーだ。

 健太がフラミンゴのクッキーをつまみながら、目を丸くした。

どどど、動物クッキー! もしかして、光一が作ったの!?」

「あー……まあな。今日は一日、歩きまわるから、みんな、おなかが空くだろうと思って」

 お弁当が足りずにすみれが大暴走したときの、対策にもなると思って。

「それに……フォトコンテストのテーマじゃないけど、みんなで校外学習なんて、めったにないだろ? だから、何か思い出に残るものがあってもいいと思ったんだ」

 すみれが撮る写真とは違って、形には残らないけど──みんなで食べた記憶は残るから。

「よかったら、みんなで食べないか? 午後も、楽しく回れるように」

「光一、いいの!? じゃあさっそく、お弁当で、おなかいっぱいになる前に!」

 健太が、みんなの真ん中に、手品で取りだしたハンカチを広げる。

 光一が、その上に容器を置くと、健太以外のみんなも、つぎつぎにクッキーを取った。

 クリスがウサギ、すみれがホッキョクグマ、和馬がネコ、春奈がパンダだ。

 みんなが、選んだクッキーを自然と高くあげる。

 光一が一番手前にあったトラのクッキーを取ると、すみれが楽しそうに声をあげた。

「じゃあ、みんなで、いただきまーす!」

 ぱくっ

 サクサクッ

 クッキーを口に放りこむと、軽い食感とともに、香ばしいあまさが広がる。

 自画自賛だけど、けっこうおいしいな。それに、どの動物も、きれいに焼けてる。

 みんな、黙々とクッキーをほおばっている。すみれなんて、もう三枚目だ。

「なにこれ、今まで食べたクッキーで一番おいしいかも! たくさん食べるためには、大きな動物を選ばなきゃね。キリン、ゴリラ、やっぱりゾウ!?」

「このシマウマさんクッキー、ちゃんとシマシマになってる。もしかして黒い部分はチョコ味!?」

「おいしい。徳川くん、すごいね。今度、レシピを教えてもらってもいいのかな?」

「……あいかわらず、うまいな」

「なんだか、元気が出るおいしさだね」

 クッキーをお茶とともに飲みこんだ春奈が、にっこり笑った。

「それじゃあ午後は、まだ見てない動物を中心に回っていく? それとも、もうどの動物でレポートを書くか、みんな決めちゃったかな」

「ぼくは、やっぱりフラミンゴさんにしようかな。心も通いあったしね。クリスちゃんは?」

「わたしはゾウかな。エサやり体験で間近で観察できたから……風早くんは、やっぱりアイ?」

「……そうだな」

 うわっ。みんな、決めはじめてるな。おれも早くしないと。

「春奈は、もう決めたのか?」

「ううん。午後にみんなと回って決めようかな。ちょっと見たい動物がいるんだよね」

「春奈ちゃーん」「見学、進んでる?」

「あ、同じクラスの子だ。少し行ってくるね」

 手を振る二人組のもとへ、春奈が走っていく。一人は、帽子をかぶった子、もう一人は、フード付きのパーカーを着た子だ。

 春奈は二人に、観察のメモを取ったノートを見せて明るく笑った。

 うれしそうに説明してるな。春奈も、おれたちとの見学を楽しめてるってことか。

 このまま午後もスムーズに見学できれば、動物園見学も、みんなのいい思い出になるはず──。

「ねえ、光一……今日はいつも以上に、あたしのジャマばっかりしてない?」

 ごふっ!

 光一は、飲みこみかけのクッキーで、思わずせきこむ。

 声がしたほうを振りむくと、すみれが光一をジトッとした目で見つめている。

 すみれのフォローをしてること、もしかしてバレたのか!?

 って、すみれのやつ、口いっぱいにクッキーをほおばってるし!

「き、気のせいじゃないか? おれは、一生懸命、動物を観察して回ってるだけで……」

「でも、ゾウのエサやりでも、次の行き先を決めるときも、なんだかんだ理由をつけて、あたしの活躍を妨害してない? フォトコンテストにぴったりの写真も、けっきょく撮れてないし」

 それは、すみれの自業自得じゃないか?

「ええっと、コンテストの写真が撮れてないのは、ただチャンスがなかったからじゃないか? ほら、カメラの腕がよくても、いい被写体がないと難しいだろ?」

「う~ん、たしかにそうかも。光一、ありがと。やっぱりチャンスが大事だよね。チャンスは待っててもめぐってこない。やっぱり──自分で作らなきゃ」

「え?」

 今、なんて──。

「光一くん、お姉ちゃん。ただいま」

 戻ってきた春奈が、笑顔でベンチに座った。

「みんな、あちこち見てまわって楽しんでるみたい。どんなレポートを書くか決めた子もいるって。わたしたちも、午後、ますますがんばらないとね」

「そうだな」

 クッキーの容器を差しだすと、春奈はうれしそうに一枚とった。

「光一くん、午前中は、たくさんフォローしてくれてありがとう。いろいろあったけど、こんなに楽しめてるのは、みんなのおかげだよ」

「みんなが協力して、すみれをうまく誘導してくれたからな。すみれも、意外と真っ当にがんばってたし」

 ちょっとオーバーすぎるところもあったけど。

「お姉ちゃんが? そうなのかな……たしかに、前に家族で来たときより、静かかも」

「前回はこれより騒がしかったのか!? ……コホン。とにかく春奈も少しすみれのことを信頼してもいいんじゃないか? なんだかんだいって、頼りになるときもたまにはあるから──」

 あ、しまった!

「たまには」なんて言ったら、すみれに、また投げとばされる!?

「すみれ、待て! 今のは、言葉のあやで──」

 あれ、返事がない。

 光一は、すみれが座っていたはずのベンチを振りかえる。

 ──すみれが、いない。

 それどころか、健太の姿も消えてる!?

 キイイッ キキーーーーッ

「!?」

 突然聞こえてきた声に、光一は春奈とそろって、ベンチから立ちあがる。

 なんだ、今の声。甲高い──動物の声!?

「これは……もしかしてマズいんじゃないか?」


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