夕暮れ時。
小学校の近くにある小さな公園に、ひとりの少年がやってきた。
赤いフードを被(かぶ)った少年である。
公園には少年以外、人の姿はない。
(ブランコの後ろの草むら……)
少年は女の子たちから聞いた通りの場所へと歩いていった。
ブランコの後ろには草むらがあり、そこを少し入ると、塀がある。
ここに昨日、異様なネコがいたのだ。
しかし、少年が見てみると、異様なネコの姿はそこにはなかった。
(やっぱりもう違う場所に移動したんだ)
少年はそう思いながら辺りを見渡(わた)した。
キャッキャッキャッ。
突然(とつぜん)、人を馬鹿にしたような高い笑い声が公園のほうから響(ひび)く。
「いる! どこだだ」
少年は草むらから出て公園の中を探した。
すると、すべり台の上に、段ボール箱のような物体が見えた。
茶色で毛がフサフサしている。
「異様なネコだ!」
少年は異様なネコのそばへと駆(か)け寄った。
ピクンッ!
少年の存在に気付いたのか、すべり台の上で丸くなっていた異様なネコが耳を立てた。
キャッキャッキャッと鳴くと、逃げ出そうと身体を動かす。
「待て、動くな!」
少年は異様なネコに向かって叫(さけ)んだ。
その声に驚いたのか、異様なネコは身体をビクッとさせると、動くのをやめた。
ニイィィィ~。
ネコらしい低いうなり声を発しながら、頭をあげ、少年のほうへ顔を向けた。
するとその目は、キラキラと輝(かがや)いていた。
少年はその目を見つめながら、異様なネコに話しかけた。
「お前は一生に1度だけ、どんな質問にも正確に答えることができる。そしてその質問をできるのは、その目を見た者だけ」
少年は異様なネコに近づく。
異様なネコはそんな少年を受け入れたのか、逃げずにじっとすべり台の上に座ったまま、キラキラと光る目を彼(かれ)のほうへ向けていた。
少年はすべり台の横に立つと、大きく息を吸い、異様なネコを見た。
「異様なネコよ。『顔のない子供』はどこにいる?」
少年は異様なネコに向かってそう叫んだ。
すると、異様なネコが口を大きく開けた。
ニイィィィィィ~!!!
異様なネコは低いうなり声をあげながら、身体を小刻みに動かす。
ニイィィィ~! ソレ……ハ……。ニイィィィ~! ソレ……ハ……。
うなり声の中に、人間の言葉が混じり始める。
少年は異様なネコをじっと見つめ続けた。
カオノナイコドモ……、ソレハ……。ソレハ……。
しかし次の瞬間、異様なネコが目を大きく見開いた。
ニイィィィィィィィィ~~!!!
叫び声とともに、異様なネコの身体が上へと伸びていく。
身体はどんどん伸びていき、異様なネコがだんだん細く長くなっていく。
ついには、異様なネコはフランスパンよりも細く、紐(ひも)のように伸びてしまった。
ニイィィィィ~! ニイィィィィィィィィィィ~!
紐になった異様なネコが、今まででいちばん大きな声をあげた。
すると、その身体がシャボン玉のように、パチンと弾(はじ)けてしまった。
「ああ!」
それを見て、少年は思わず言葉をもらす。
異様なネコの姿が完全に消えてしまったのだ。
「やっぱり、顔のない子供のことを聞くのはムリか……」
少年はガッカリしながら、ふと、ポケットから真っ赤な手帳を取り出した。
「しかし、何の害もないものを作りだすこともあるんだな……」
少年は手帳を開いて、異様なネコがいたすべり台にそのページを当てる。
すべり台の鉄柱には奇妙(きみょう)なマークが刻まれていた。
少年はそれを見ながら、呪文(じゅもん)を唱えた。
すると、奇妙なマークがキラキラと輝きはじめ、開かれたページに反転して写し取られた。
鉄柱にあったマークは消えている。
少年はそれを確認すると、真っ赤な手帳を閉じ、ポケットにしまった。
「もう、この町には用はない……」
少年はそう言うと、ひとり公園から去っていくのだった。
その後、この町で異様なネコを見た者はいない。
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